2017/5/22
キンガスジーの鉄道駅から、重い荷物を背負ってひーこらひーこら歩くこと、およそ1時間。。ようやく念願のスペイサイド蒸留所に到着です!
私にとってはスコットランド蒸留所巡りの旅、ある意味最後の一つと言える蒸留所である。感慨深さを感じながらも、ここはノービジターの蒸留所。果たして見学ができるかなぁ、少しく不安を抱きながらずかずかと中に入っていきます。
入口付近に、ドラフの回収に来たと思しき業者さんがいたので、慣れた様子で愛想を振りまくと「オフィスはあっちだよ」と教えてくれた。
(がっしりとしてシンプルな石造りの建物が生産棟。手元の『シングルモルトウィスキー大全』によると、この建物はアレックス・フェアリーという地元の石工、ただ一人によって建てられたらしい)
(生産棟のドアを開けて覗き込むとスチルが!)
いきなりのスチルとの対面にテンションを上げながら「ハロー?」と奥に向かって声をかけてみるも、反応は無し。うむむ。どうしたものか。仕方がないので、一旦ドアを閉めて、建物の裏手に回り込むことにします。
(裏手。ドアは開け放たれているが、人の気配はしない)
(所内には川が流れており、水車まで付いていた。山と緑に囲まれた立地で、とても清涼な雰囲気)
生産棟の裏には別の建物があり、そこがオフィスと知ることができたので、ドアをノックしてみるも反応は無し。窓を覗き込んでみても、無人の様子である。
こいつは困った。せっかくここまで来たのに、このままとんぼ返りはあまりに寂しい。というか、見学の一つでもできないと、このクソ重い荷物を背負って再び駅まで戻る気力が湧かないというものだ。これを書いている今現在でさえ、当時の肩の痛みを思い出しては首を鳴らしている有様である。
無人のオフィスの前に荷物を降ろして腰掛け、しばらく待ってみようと気持ちを固めます。
しかし、この日のスケジュールは実はとてもタイト。インヴァネスを朝出て、トマーティンの見学を朝一で済ませてキンガスジーへ。ここが終わったら、今夜の宿があるピトロッホリーまでくだらなくてはいけない。もしここの見学が無理なようならさっさと諦めて、道中にあるダルウィニー蒸留所の見学をするというプランもある。つまり、あんまりのんびりも待っていられないのである。
10分かそこら、体力を回復させがてらオフィス前の階段に腰をかけていた私ですが、ぼちぼちいきましょうかね、と、生産棟の開いていた裏口へと進みます。
(生産棟のドアをくぐったすぐ右手には樽と、試飲用と思しきボトルが置いてあった。おかしいな。。ここはノービジターのはずなのに、なんでこんな用意がしてあるんだ。。?)
(正面を向くと、タンクが並ぶ間にパネルも飾られている。おかしいな。。ノービジターの蒸留所でそんなことあるかな。。?)
例によって「ハロー?」言いながら奥の方を見遣ると、今まではなんの気配もしなかったところから、一人のおっちゃんが。つかつかつかっとこちらへ向かって来たのだが、階段をおりてくる気配はなく、私のことを一瞥こそすれ、マッシュタンの中を覗き込んだりと、作業の手を止める様子はない。
(私のいたポジションから仰ぎみたマッシュタン)
人の姿が確認できたところで、今一度「見学したいんだけど」と声をかけると「今日は見学してないよ。予約したのか?」とおっちゃんから反応が返ってくる。
「してないよ。予約必要だったの?てゆーか、ツアーやってるの?」と尋ねると「予約した
場合だけな。火曜から木曜まで。今日は月曜。月曜はやってない」と。
なんてこったい。それは知らなかった。てっきりツアーはできない蒸留所だと思っていた。しかし、このところのウイスキー需要で、今まではツアーをやっていなかった蒸留所もビジターアトラクションを整えていったと聞くし、ハンドフィルなんかをやり始めた蒸留所なんかもとても多い。しまった、ここもそういう蒸留所の一つだったか。思うも、そもそも火曜以降にまたくる時間はない。ちゃんとしたツアーを取ることができないのは残念だが、幸いまだ見学の可能性はある。「かくかくしかじかで、火曜日にまたくる時間はないんだけど、いま中を見てもいいかな?」とお願いをするも、おっちゃんは「イエス」とも「ノー」とも言わず、また奥の方へ戻っていってしまった。
うむむ。思いながらも、「ノー」とは言われてないもんねー、という理屈でザクザク中へ入っていきます。
(ずらっと並ぶステンレス製のウォッシュバック)
(おっちゃんの邪魔をしないように階段を上がると、そこにはウォッシュバックと向き合うようにして立つ、2基のスチル。三角屋根の窓から差し込む光がとても柔らかで、美しい)
(スチルはロッホサイド蒸留所のおさがり。ただ、サイズはこの建物に合わせて小さくしたんだと)
(神々しささえ感じるほどに美しい)
(建物内に飾られていた「LAGGANMORE DISTILLERY」の看板。ラガンモア?聞いたことないな。と思い調べたら、BBCのTVドラマ『Monarch of the Glen』の撮影で同蒸留所が使用された際、つけられた名前が「Lagganmore」だったよう)
無愛想なおっちゃんだったけど、私がちょこまか動いて写真を撮っているのも黙って認めてくれた。最後にサンキューくらい言おうと、おっちゃんを探すもどういうことかまた姿が見えない。はて?一体この狭い建物のどこに姿を隠すような場所があるのだろう。と不思議に思っていると、不意にすっと現れたりする。不思議なおっちゃんである。サンキューと握手をして、蒸留所を後にします。
(蒸留所を出て向かいの方角に「Drumguish」という馴染みのある名称が書かれた標識が伸びていたので、そちらにも少しだけ足を伸ばす。いつぞやの「ディスティラリー・コレクション」で描かれていたような、背の高い樹木が林立していた)
これで、2013年以降の振興蒸留所を除くと、スコットランド全ての蒸留所を見学して回ったことになる。そういった感慨もあるかもしれないけれど、それを抜きにしたってとても美しい、訪れる価値のある蒸留所でした。