2017.1.24
キングスバーンズ蒸留所で、金持ちに対する僻み根性ですんすんの心持ちになってしまった私は、次の蒸留所を目指すために、バス停まで走ります。前の記事で書いた通り、この日は道路工事でバスが蒸留所の近くまで入ってきてくれない。次のバスを逃すわけには行かない私は、酒を入れた直後の体に鞭打ち、せっせとバス停を目指します。
お次に目指すはエデンミル蒸留所。発音的には、イーデンミルの方が近い感じもするのですが、ここではこの表記でいきます。
キングスバーンズからは、まずセントアンドリュースに戻り、バスを乗り換えてそこからさらに10分ほどで、蒸留所近くに到着いたします。
(幹線道路沿いにある建物。やはり傍目からは蒸留所とはわかりづらい)
(EDEN . MILL DISTILLERY & BREWERY)
こちらのエデンミルは、2012年、まずはエデンブリュワリーというビール工場として誕生。その2年後の2014年に、ジンとウイスキーの製造も始めて、名前をエデンミルとした経緯があります。この複合蒸留所を特徴付ける最大のものはというと、何といってもそれら3種の異なるアルコール商品の製造方法です。
クラフトディスティラリーという単語が生まれて久しい昨今。ウイスキーの蒸留所が、ジンやウォッカなどその他のスピリッツを製造することは、何も珍しいことではありません。ビールに関しても、ウイスキーのカスクに詰めたバレルエイジドのエールなどの存在が、両者の関係を近づける役割を果たしております。しかし、エデンミルのように一所でビールもウイスキーも作るという工場は、今までなかった発想でした。
そして彼らの面白いのが、その発想をさらに発展させ、「どうせ同じ場所で作るんだから、それぞれをインタラクティブに影響させちゃえ」という商品を生み出しているところ。
例えば、前述の「ウイスキー樽熟成のビール」というのはウイスキー→ビールへの作用と言えます。同じようにビール→ジンに関しては「ホップをボタニカルに使用したジン」を、そしてビール→ウイスキーとしては、クリスタルモルトやチョコレートモルトなど「ビール用のモルトを使用したウイスキー」というものを製造しています。
ともすれば危険な、それぞれのアルコール商品同士のコンビネーションが、何とも自由な発想でなされている複合蒸留所なのです。
(エデンミルプロデュースによるブレンデッドウイスキー「ART OF THE BLEND」)
(ジンはコアレンジだけで4種(現在は5種)。さらには、ジンと合わせる割りものさえもプロデュースしている)
(ビールもラガーやIPAから、バレルエール、ミルクスタウトに至るまで、多くの製品を産み出している)
ジンやその他のアルコール製品をプロデュースしているクラフトディスティラリーの多くは、資金集めという側面が大きいです。製品になるまでに時間のかかるウイスキーを熟成している間に、熟成を必要としないジンやウォッカを作って、当座の資金を生み出すということです。しかし、私がここエデンミルで感じたのは、どれもがメインの製品である、ということ。
「ウイスキーのためにジンやウォッカを作る」ではなく、「ウイスキーは本気で作る。ジンも本気で作る。ビール?本気」という姿勢。それが、前述した「各アルコール製品の相互的製造過程」などにも顕れているかと思います。そこには新興の蒸留所が運命的に抱えている、ある種の後ろ暗さを伴った試練のようなものは、まるでないように感じました。
多くの商品に囲まれにやにやしながら受付を済ませ、ツアーの時間まで待ちます。
(ツアーまでの待ち時間。ウェルカムドリンクとして給されたのはバレルエイジドのビール。私はウイスキーのツアーなのに。グラスに書かれた「BEER. WHISKY. GIN」もいい感じ)
ツアーがスタートすると、早速製造棟へ向かいます。この製造棟がとても雑然とした印象を受ける。そりゃそうだ。ここでビール、ジン、そしてウイスキーという異なる製品を産み出しているのだから。
(様々なタンクが乱立している。どれがビール用でどれがウイスキー用なのか分からない)
(タンクを背にすると、そこにはポルトガル製の3基のスチル。ストラサーンやロッホユー、日本の長濱蒸留所のようなアランビックタイプのスチル)
(3基のスチルはどれも同じシェイプ。ラインアームの形だけがやや違うが、これらの3基でジンもウイスキーも作るのである)
(製造棟を抜けた先にあるボトリング&パッケージサイトの片隅にも、樽が重ねられていた。果たして、中身はウイスキーだろうか。ビール?それともジン?)
(ボトリングは一つ一つ手作業で行われている)
小規模蒸留所というのであれば今までも数多く見てきたけれど、それとは違った魅力や面白さがある複合蒸留所。試飲後には、試飲に使っていたグレンケアンのテイスティンググラスのプレゼントしてくれて、満足度ハンパない感じ。ほくほく。
1日で2件の蒸留所を回りましたが、個人的には圧倒的にエデンミルがオススメです。単純なウイスキー蒸留所ではないというので、若干飛び道具感はありますが、スタッフの皆さんのホスピタリティも素晴らしかったですし、何よりも自分たちのそれぞれの製品に、本当に誇りを持っているのが感じられて、なぜかこっちが嬉しくなりました。
この旅の間に飲みきれなそうなウイスキーやジンのボトルを買っていくことは出来ませんでしたが、折角なので晩酌用にと、セール中だったIPAとペールエール(1本1ポンド!)を購入して、再びセントアンドリュースまで帰ったのでした。
#Eden Mill