2016.5.19~
無事に部屋も決まり、次にやらなくていけないのは外国人登録。シティセンターにある登録オフィスでは、朝の8時からその日に受け付けられる人数に整理券を配るのだけれど、この希望者がとにかく多い。事前にネットで調べたところ「とにかく人が多いから、オープン時間に行ったら間に合わない。少なくとも1時間前にはいかなきゃ」という情報を得る。ほー。そんなもんかね、思い、ゆとりを見て朝6時半くらいにオフィスに到着したのだけれど、目の前に飛び込んできたのは、オフィスのビルをぐるっと囲んで待機している登録希望者の列。すでに100人くらいはいたんじゃないかと思う。一日の受付人数が何人なのかは分からないが、まさかこんなにも争奪戦なのだとは想像しなかった。その後オープンまで1時間半。5月とはいえダブリンは東京よりもだいぶ涼しく、薄手のダウンを着て行ったにもかかわらず凍えてしまうような寒さだった。毎朝、これだけのアイルランド移住希望者が並ぶことからも分かるように、アイルランドは(少なくともダブリンは)とても多くのナショナリティが混在するコスモポリタン。私も、そんな外国籍の人間として寒さに耐えながら、時間を待ちます。
8時になり、オフィスがオープン。わりとさくさく進んで、オフィスに入ることができたのが8時半ごろ。この段階ではまず、登録に必要な書類が揃っているかどうかだけを確認され、問題がなければ整理券を渡され「3時間後にまた来い」と送り出される。せっかくなのでこの隙に街をふらふらと観光し、ぼちぼち時間かなーと思い、事務所に戻り、電光掲示板に表示されている整理番号を見て、まだまだ時間ありそうだなと、近くのパブに行き一杯。飲み終えたタイミングでまた掲示板をチェックしに行き、これならまだハーフパイントは行けそうだな、とパブに戻ってもう一杯、という感じで時間を潰し、ようやく私の番号が呼ばれたのは13時半ごろ。そこから写真撮って、300ユーロをカードで支払って、さらには両手十指の指紋を取られたり、立ったり座ったりして、最終的に全てが完了し登録証をもらえたのは15時ごろ。大変でしたが、無事この国に住む許可が出て一安心。
(ご存知、アイルランド一の品揃えを誇るケルティックウイスキーショップ)
次に私が着手したのがPPSナンバーと呼ばれる社会保障番号の取得。これがないとこちらで仕事をすることができない、と聞いていたので、働くつもりの私は何としても取らなくてはいけないもの。しかし、ネット上の情報を確認してみると、様々な意見が飛び交っている。「PPS取らなきゃ働けない!」というものもあれば「いやいや、そもそも仕事見つけて職場からの紹介状がないとPPS取れないよ」というもの、果ては「えっ?PPSなくても全然問題ないよ?(おそらく違法)」というものまで。何者かがわざと私を混乱させようとしているのではないかと思うくらい、全く逆方向の意見などが乱立している。必要書類なんかも「住所証明とパスポートがあればいける」というものから「企業からの紹介状がマスト」と言っているもの、「(学校に通う人は)学校からのレターでいけるはずだよ」というものまで。というのも、この数年でこの辺のシステムが変わったらしく、雇う側さえその変化に追いつけていない、という現状らしい。なんだめんどくさいな、思いながらも、とりあえず分からないまま社会保障事務所に行き、その場で聞くことに。「ハロー、PPSナンバー欲しいんだけど」「なんだお前、予約はあるのか?」「予約?PPS取得に何が必要か聞きたいんだけど」「まずは予約が必要だ。予約してから来い」と門前払いされてしまう。うむむ。仕方がないので、まずはその予約をしないといけないのだけど、そのためにはまずは電話番号が必要。というわけで、次にするべきはケータイの購入ということに。
(アイルランドにも押し寄せているクラフトビールブーム。これは「fresh」という少しいいスーパーマーケットの棚)
日本でもケータイの購入はめんどくさいもの。勝手も分からない、言葉も通じない国で果たしてケータイを契約することなんか出来るだろうか、と不安になりましたが、これが全くの杞憂。いくつかああるキャリアの中から「Three」という会社を選び、いくつかある端末の中から一番安いものを選び、「I'd like to have this one」ってやったら「あいよ。なんユーロのトップアップにする?」「じゃ、じゃあ20で」「はい。毎度」で、あっという間にケータイをゲットすることができた。心配して損したなーという気分で家に帰り、早速PPSの予約を済ませるも、一番早い日程で2週間先。何かにつけて時間がかかるのである。
そんなこんなで、予約の日程でオフィスへ再訪し、PPSの取得。パスポートや滞在許可証のほか、住所証明も必要。この住所証明ってのが私の場合一番のネックで、というのも私が住んでいるのはシェアアパート。公共料金の支払いなんかはデイビッドの名義でくるし、大家さんは住所証明を出してくれない。仕方ないので、デイビッドにお願いして「こいつはこの住所に住んでるよ。俺が証明する」って手書きのレターを書いてもらい、そのデイビッド宛に来た公共料金の請求書と合わせて持って行って、ようやくなんとかなった。手続き自体は10分ほどで完了。最後にまた写真も撮って、カード自体は後日住所に送られてくるとのこと。これでなんとか仕事に就くことが出来る。
(家から最も近いパブの一つだった「beerhouse」のある日のタップリスト。ハーフサイズがきっちりハーフ価格なのが嬉しい)
ついで銀行口座の開設もしなくてはいけない。手渡しで給与の支払いをしているところもあると聞くが、基本的には振込。必要不可欠な作業の一つです。これも情報は錯綜していて、必要書類もなにも詳細は掴めない。しかし、こちらには外国人登録証明もあればPPSもある。パスポートや滞在許可証に住所証明代わりのレターもあるんだからいけるやろ!と思ったのだけれど、今度は「税務署からの証明書がなきゃダメ。住所証明も、こんな手書きのレターじゃダメ」と。後日、仕事を見つけてから、職場のマネージャーにもらったレターを提示しても「税務署に登録して、その証明書を持って来い。それが口座を開設するのに必要な唯一の書類だ」みたいに言われてしまった。口座開設に関しても、ネットでは「銀行によってはいけるところもあるはず」「同じ銀行でも支店によっては受け付けてくれるところがあるはず。街中から外れたところがオススメ」「いや、同じ支店でもスタッフさんによっては対応してくれる」「最初は断られたけど、何度か行って30分くらい粘ったら開設できた」みたいな信憑性のあるような内容な情報が過多。結局最後は「仕事を見つけて、税務署で登録を済ませて、そこから送られてくる証明書を持っていく」ことで、ようやく口座の開設とデビットカードの所有が叶いました。いやー苦労した。
(この年はサッカー、ユーロ大会の年。アイルランドはなんと史上初のグループリーグ突破を果たした。この日はトーナメント一回戦のフランス戦。先制を決めた時の盛り上がりはすごかったのに。。)
そしてようやく職探しです。アイルランドでは「ケルティックタイガー」(かっこいい)と呼ばれたゼロ年代前半の急速な経済成長が2007年ごろにはじけて以来、失業者は増大。2012年には失業率が15%を超えるなど、深刻な不況に陥っていました。私が「アイルランドに行く」という話を知人のアイリッシュにした際には、「いまさらあんな終わった国に行ってどうするの?」(あくまで彼の一意見です。アイリッシュ特有のシニカルな物言いとも言えます)と、言われたほどです。ここ数年は、ようやく不況脱却の光が見え始めたとはいえ、未だに街にはホームレスが多く、就職率も決して高くはないのが現状です。ちょっと逸れますが、この年はまさしく Brexit が起こった年ですしね。私感ですが、これからアイルランドはまた強くなると思います。首相も若いですし。
そんなわけで、私の職探しは極めて難航しました。私は今回の移住の主目的を「パブカルチャーを学ぶ」に設定していたので、どうしてもパブで働きたかったのです。しかし、そんな経済環境、そして私の場合語学力の無さが大きなマイナスポイントになりました。10年以上にわたって飲食店経験や専門的知識や技術を必要とするバーテンダー業に携わっていたとはいえ、それはあくまで東京でのこと。その経験や知識をアピールできるだけの言語力がなければ、お話になりません。店としては、経験のある外国人よりも未経験のアイリッシュの方がいい、と思うのは普通でしょう。
私の求職方法は主に2つ。一つはインターネットの求職サイト(jobs.ie など)をチェックして、CVを送りまくるという方法。しかし、この方法はほとんど返事が来ません。30件くらいは撒いたと思いますが、返事が帰って来て面接までこぎつけたのはわずか1件。あまり効率的な方法とはいえません。そこで私が主に採っていたのは、実際にCVを抱えて街へ出て、「バイト募集!」みたいな貼り紙のあるパブに飛び込んでいく、というものでした。
(こんな感じの貼り紙。シティセンターならパブはいくらでもあるので、求人の貼り紙も比較的簡単に見つけることができる。見つけるところまではね。。「MUST HAVE FLUENT ENGLISH」を見なかったことにして、カタコトの英語で突っ込んでいく気合が必要である)
「ハロー!表の貼り紙見たんだけどまだポジション空いてる?」「お?CV持ってるか?」「いえーす!はいこれ!」「おっけー。じゃあマネージャーに渡しとくから。そっちから連絡するよ」「わーい。よろしくー」なんて感じで、とにかくCVをばら撒く。これはスムーズに行った例で、中にはバリバリ貼り紙してあるのに、「うちは求人してないよ!」とか「英語できるの?そうは見えないけど」とか、ただ一言「NO」とだけ言われ門前払いされることなんかもざらにある。とにかく負けない強い心が必要である。それでも精神は磨耗していくもので、1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、CVは巻き続けているにも関わらずどこからも全く連絡はない。「シティセンターは無理かもしれないからちょっと離れたパブを狙ってみよう」とか「逆にテンプルバーエリアみたいなクソ忙しい場所ならいくらでも雇われるのでは?」とか「お?beerhouse 求人しとるやんけ!ハロー!いっつも飲みに来てる俺やでー!」みたいなことをやり続けてもまるで響かない。おそらくは自身の語学力が一番の原因なんだろうけど、そもそも面接にまでたどり着けないのはどういうことだ。私のCVは本当にマネージャーまで渡っているのだろうか。まさか、これが、人種差別。。?みたいなネガティブスパイラルに落ち込み、実際ルームメイトのデイビッドには「いままでアジア人がパブのカウンターに立ってるの見たことある?」とか聞いたりしていた。答えはNOだった。辛い。
このやり方ではいつまで経っても仕事は見つからないのではないか。それに気付いてから私が採った強硬手段がこちら。まずCVはマネージャーに直接渡す。「あとでマネージャーに渡しとくよー」とCVを受け取ってくれるところは99.9%返事が帰ってこない。なので、そう言われた時は「いまマネージャーいないの?じゃあ明日はいる?何時?じゃあその時間にまた来るわ」と引き返し、とにかくマネージャーに直接渡すようにした。これがまず第一。これで返事が帰って来る率が0.01%から2%くらいまで上がる。でも、マネージャーに渡したところで「じゃまた後で連絡するよ」と帰されたのでは、今までと大して変わらない。そこで私が採ったのが「ちょっと待って!ついでに一杯飲んでいい?ギネスパイントで」とその場で一杯頼んで、どっかとカウンターに居座って、無理やり自分のことを話し始める、という方法である。なんでアイルランドに来たか、自分は東京でこんなことやってた、パブで働くには何が必要か、なんてことをとりあえず喋る。喋れば喋るほど、私の語学力の無さは露呈していくのだけれど、一番ダメなのがここで黙ってしまうこと。とにかく喋る。ボディーランゲージでもなんでもコミュニケーションをとる。強制的に面接の場を作ってしまうのだ。もちろん、多くのマネージャーは適当なところで話を切り上げて行ってしまったり、はっきりと「君に必要なのは英語の勉強だ」と言われてしまったりすることもあった。ただ、その中からCVに目を通してもらい「なんだ、英語はできないけど経験は随分あるんだな」「ちょっとうちのメニュー見てみろ。このカクテルのレシピ分かるか?」「うちでは取れないけど、姉妹店があっちにあるからそこへ行ってみな。役に立つかも」など、少しずつ私に興味を持ってリアクションしてくれる人が増える。こちらとしては、どんなものでもリアクションが返ってくるのがとにかく嬉しい。酒関係の話になれば、英語関係ない共通言語がいくらでもある。「最近ジン流行ってるよね」「あ、俺このビール(ウルケル)の醸造所行ったことあるよ!」「東京で働いてた時は、ギネスにシャムロック描いたりしてたよ!」など、アピールできることは少なくない。そうしたコミュニケーションから、ついに仕事を見つけることができたのは、職探しを始めてから1ヶ月以上が過ぎた後。いま思えば、かなりなりふり構わないやり方だったし、嫌な顔されることもたくさんあったけど、こうでもしないと仕事を見つけることはできなかった気がする。それもこれも、私にもっと語学力があれば正攻法で見つかったと思うんですけどね。。
(私が働いていたパブ、終業後に撮った一枚。いわゆるオールドスクールなパブというかは、もっとファンシーでオシャレな雰囲気の店)
さて。長々と移住に必要な申請から職探しまでを語りましたが、このブログはもとより「蒸留所巡りブログ」。わたしが、前回にスコットランドを訪れた2012年以降、怒涛の蒸留所建設ラッシュが始まりまでした。今回、このブログを再開した最大の目的は、そうした新興の蒸留所の訪問記を書きたいと思ったからです。
というわけで、いよいよ次回から!拠点をダブリンに移して、ぐっと近くなったスコットランド!新興の蒸留所の様子をお伝えしていこうと思います。長々と前振り失礼しました!