前者は映画のタイトル、後者はその原作となった本のタイトル。わたしは「からのゆりかご」を一気に読んだ。まだある種のショック状態にある自分を感じる。
これは、Home Child あるいは Child migration と呼ばれる”児童移民”を取り扱ったもので、恵まれない子供達を預かっていた英国の施設から、子供たち本人はもちろん、その親達や親権者になんの了解も承諾もないままにオーストラリア、ニュージーランド、カナダなどに”国策”として送られた歴史的事実を描いている。17世紀からはじまってはいるものの、1930年代からはより積極的になり1940年代,1950年代そして、1960年代になってもこの政策がやめられることがなかった。
子供たちが、誰の承諾もなく国策として外国へ送られ、そこで十分な教育を受けることもなく、安い労働力として扱われ、場合によっては性的虐待を受けることさえあった、と聞かされたとき、しかもその送り手の国が英国だと言われたら、あなたは信じられるだろうか?
オーストラリアに連れて行かれた子供たちの中には、親が生きていて、生活が苦しいから一時的に施設に預けただけだったのに、その子供にはもちろん、親の承諾させないまま送り込まれた子供さえいた。そして、子供たちには、親はもう亡くなったからと説明していたのだ。
これらを実行したのは、英国とオーストラリアをはじめとする政府なのだが、具体的な送り元や送り先となったのは、英国でもオーストラリアでも有名な慈善団体やキリスト教の修道院だったこともわかり、この問題でいくつかの宗教団代は謝罪声明をださざるをえなくなっていた。
1987年にこの問題は公になったものの、公式の謝罪はオーストラリア政府によって2009年に英国政府によっては2010年になってからなされた。
本当にこんなことが20世紀の英国にあっていいのか?と本を読み終えた今でも思う。
ある種、自国の恥であったこの問題に取り組み、児童移民達に支援を始めたのは、英国・ノッティンガムでソーシャルワーカーとして働く一人の女性だった。そして彼女に協力する多くの英国人がいた。そこに、英国人の正義を感じる。
ちなみに映画のタイトルとなった「オレンジと太陽」は、英国にはない「オレンジ」と「太陽」が約束された国に行けると児童移民達が言われていたことによるそうだ。また、「からのゆりかご」は、児童移民を受け入れたオーストラリアのパース大司教の歓迎の辞にでてくる言葉である
映画でも、本でもどちらでもいい、ぜひ、このことを多くの人に知ってほしいと願う。
タイトル:からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち
著者:マーガレット ハンフリーズ
翻訳:都留 信夫, 都留 敬子
単行本: 379ページ
出版社: 近代文藝社
ISBN-10: 4823108760
ISBN-13: 978-4823108761
発売日: 2012/2/10
価格:2,500円+税
これは1997年に出版された本の改訂版となっている。
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