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アイルランドのシングルモルト

備忘録『アイルランドのシングルモルト』

Irish Single Malt Whiskey
 
ア・ドロップ・オブ・ザ・アイリッシュ(45度、700ml) A Drop Of The Irish
 
スコットランドの瓶詰め業者、ブラックアダー社が発売する、シングルモルトなアイリッシュウィスキー。淡い麦藁色の芳醇なアイリッシュ・ウィスキーの一例。正に、アイリッシュの滴(しずく)を啜るが如く堪能したい逸品だ。
 
厳選されたブッシュミルズ蒸溜所の複数の樽(原酒)をヴァッティング、そのレシピはブッシュミルズ蒸溜所により封印され、伺い知る事は出来ないとか(実は、7年~12年物をヴァッティングしたもの、ノンチル、ノンカラーリングでボトリング)。
 
ブラックアダー社の独自ボトリング。チル・フィルタリング(氷点下フィルターで濾過する行程)を行っていないため、ウィスキーの持つ副次成分、芳香成分、脂肪分などを損なわずにボトリング。また、カラメル等による着色を一切行っておらず樽出し後に加水のみを行った、ナチュラルなアイリッシュ・モルトの一典型としてこの銘柄の登場を歓迎したい。
 
ブラックアダー・インターナショナルは「ザ・モルト・ウィスキー・ファイル」の著者として知られる、ジョン・ラモンドとロビン・タチェックが選んだ、単一樽からの製品。同社のブランドには、樽出しものと加水したものがある。
 
Blackadder International、イギリス
 
 
 
ブッシュミルズ・モルト10年(43度、750ml) Bushmills
 
英国、北アイルランド自治州アントリム群で造られているシングルモルト。この銘柄は微かにピート・フレーバーを持っており、一般的なアイリッシュ・ウィスキーとは一線を画している。
 
ブッシュミルズとは、アントリム群にある町の名で、”林の中の水車小屋”の意。蒸溜所は、1608年イングランド王ジェームズ1世から蒸溜免許を受けており世界最古のウィスキー蒸溜所と言われる。合法的に酒造りが認められたが、当時各地に溢れていた密造業者との競争に敗れ、長期間閉鎖状態に追い込まれた。しかし、アイリッシュ・ウィスキーが全盛を迎えた1880年代には良質のウィスキーを生み出し、ヨーロッパやアメリカでその名声を鳴り響かせた。ところが1885年のクリスマスの日、蒸溜所で火災が起き、建物は灰燼に帰してしまった。その後、蒸溜所は一新され、1896年、ベルファストの酒商人、サミュエル・W・ボイドによってオールド・ブッシュミルズ蒸溜所会社が設立された。
 
第一次大戦後、ブッシュミルズの近郊にあるコールレーン蒸溜所や近くの弱小蒸溜所を買収し北アイルランドで不動の地位を築いた。本社もブッシュミルズからベルファストへ移転。しかし、第二次大戦後、織物業界の有力者や英国に多くのパブや居酒屋を持つ醸造業者の手に渡り、1960年代カナダの巨大企業シーグラム社の傘下に入った。1966年、ダブリンとコークの有力蒸溜所がIDG結成。72年、シーグラム社の手から放れ、IDGに加わった。1988年、それを引き継ぐ壮烈な争いが英国巨大企業グランド・メトロポリタンとフランスのライバル会社ペルノー・リカールの間で繰り広げられ、後者が勝ち取った。
 
ブッシュミルズ蒸溜所では、微かにピート香をつけた大麦麦芽で原酒を造る。未発芽の大麦は使わない。ポットスチルはスコッチ・ウィスキーに比べると遥かに大型でしかも伝統的に3回蒸溜を行っている。初溜・再溜合わせて11基(ストレート・ヘッド型)。仕込み用水は、セント・コロンバ川の良質の軟水を利用している。熟成はシェリー古樽とバーボン廃樽に詰めて行われる。
 
蒸溜所は、オルスター北海岸沿いジャイアンツ・コーズウェイの近くに建っている。
 
ブッシュミルズ・モルト10年は、10年~12年熟成させたモルト・ウィスキー。濃厚なバニラ香のするフルーティで香り高い辛口の酒。余韻の長さも十分楽しめる。当初、国内市場に限定されていたが、1993年にアメリカで発売され、たちまち人気を博したという。
 
Bushmills Distillery、アイルランド
 
 
 
ブッシュミルズ・モルト16年(40度、700ml) Bushmills
 
オフィシャル・モルトの16年物。熟成にはバーボン・バレル(Bourbon Barrel)とシェリー・バット(Sherry Butt)の両方が使われ、最後の6カ月間はポート・ワインの大樽(Port Pipe)で仕上げが行われる。ラベルにある'Matured in Three Woods'の意味する処がそれである。
 
黄金色の輝きを持ち、グラスの中のウィスキーの縁がルビー色の中琥珀色。香りはフルボディで新鮮、僅かに若草の香りと西洋スグリのキャラクターがあり、リッチで樽香の強いナッツ香を持つ中甘口で、ナッツ香るトフィーのキャラクターもある。
 
フレーバーはおおむねドライで良好なボディ、滑らかで濃厚なナッツの味わい、まろやかで僅かに西洋スグリの熟れた味わいと、少々トフィーの味わいがある。フィニッシュは長く、良好なナッツのリッチさ、濃厚な複雑さ、まるでマホガニーの様な噛み応えがある。
 
Bushmills Distillery、アイルランド
 
 
 
カネマラ(40度、700ml) Connemara
 
 
カネマラは、アイルランドで独立系のクーリー蒸溜所の製品。クーリー産モルト原酒は、ピートで香を付けているのが特徴。この銘柄は、1800年代に人気のあったデリー蒸溜所のブランドを復活させたもので、スコッチのラガヴーリンとラフロイグに対抗して生み出され、1996年度の国際ワイン&スピリッツ・コンペティションで金賞を受賞し、一躍その名を轟かせた。
 
クーリー蒸留所の創業者は、ジョン・ティーリング。1987年にアイルランド政府の経済拡大政策に沿い400万ポンドを投じてラウス州ダンダルクにケミックトー(熱い科学)蒸溜所と呼ばれていた工業用アルコールの蒸溜所を入手し、クーリー蒸溜所として開設、1989年より蒸溜を開始したアイルランド唯一の独立系蒸溜所である。1992年以降、かつてのブリュスナ蒸溜所やデリー蒸溜での人気銘柄を次々に復活させて、小規模ながらIDGと対峙する第二勢力として、着実にその地位を築きつつある。
 
ポットスチルはストレート・ヘッド型で初溜・再溜併せて2基、容量が各16000リットルと小規模。パテント・スチルは4基あり、1週間に17000樽のウィスキーを製造。仕込用水は、クーリー山脈のスリーヴ・ナ・クロークにある泉を使用している。
 
クーリー蒸溜所で蒸留されたウィスキーは樽に詰められ、一旦ギルベガンにあるロックス蒸溜所博物館の奥にある貯蔵庫に運ばれ、そこで熟成が行われる。そして、3年以上熟成させると再びダンダルクに戻され、ブレンディングと瓶詰めの作業工程に回される。
 
蒸溜所は、アイルランド共和国と北アイルランドの境界線からそう遠くないダンダルクのリバースタウンにある。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 
 
 
カネマラ・カスク・ストレングス(59.3度、700ml) Connemara Cask Strength
 
カネマラ用に熟された原酒を、樽出しの強度で瓶詰めしたボトル。
 
1991年8月に蒸留され、オーク樽に貯蔵。1996年に一度ヴァッティングが行われた後、1996年10月瓶詰めされた、正に「入魂」のアイリッシュ・ウィスキー。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 
 
 
クロンターフ(40度、700ml) Clontarf
 
ダブリンに本拠を置くクロンターフ・アイリッリュ・ウィスキー社が、クーリー蒸留所の原酒をバーボン樽で熟成させた、メロー&リッチなアイリッシュ・シングルモルト。ラベルに'MELLOWED THROUGH ATLANTIC IRISH OAK CHARCOAL'の文字が読み取れる。スコッチ/アイリッシュの別を問わず、メローな酒質を得るためにユニークな製法を試みている様子が伺える。
 
COLOUR : Light gold.
NOSE   : Intensely malty and rich.
TASTE  : Full textured, malty, softly oaked and lingering.
  
■クロンターフ・トリニティ(アソート・ボトル)
  
容量200mlのボトルを上下3段に重ね、レギュラーボトル1本のシルエットとしたクロンターフ銘柄のボトルを先行リリースしている。1番上のボトルにはアイリッシュ・シングルモルト、2段目にはリザーヴ・アイリッシュ「ゴールドラベル12年」、3段目はスタンダード・アイリッシュ「ブラックラベル8年」という構成を採っている。
 
Clontarf Irish Whisket Co.、アイルランド
 
 
 
ナッポーグ・キャッスル1992年(40度、750ml) Knappogue Castle
 
ナッポーグ・キャッスルとは、アイルランド西岸のクレア郡にある古城の名。所有者であるマーク・エドウィン・アンドリュースは、この由緒ある旧跡の名を冠した独自のブランドを世に問うた。その最古の物は1951年蒸留のヴィンテージ品である。
 
現在流通しているヴィンテージは(1990、1991、1992)の3種。クーリー蒸溜所のシングルモルトを使用しているが、麦芽の乾燥にはピートを使用していない。著名なウィスキーライターであるジム・マーレイの協力によって誕生した、アイリッシュの佳酒。米国向けに開発されたブランドで、マーク・アンドリュースが社長を務めるグレート・スピリッツ社がアメリカ国内の好事家向けに輸入を行っている。
 
ナッポーグ・キャッスル1992年は、非常に芳香に富む、スムースなシングルモルト。1999年瓶詰の7年物。ラベルにはマーク・アンドリュースの手書きのサインがある。
 
Nose     : At opening is toasty, malty and remarkably compelling. With air contact, an oily/seed-like aroma emerges in the second pass that mixes well with the dry cereal surface perfume. In the third pass, a barely discernable touch of tobacco leaf/smokiness is detected. Following six minutes of aeration ミ in the fourthand final sniffing, what dominates is the stone dry, toasted grain/malt tandem. 
 
Taste    : The palate entry is mildly sweet and grainy, but by mid-palate the sweetness grows significantly more intense as the texture coats the tongue. 
 
Finish   : The aftertaste is long, grainy and oily. 
 
Comments : Bravo and keep them coming. 
 
Knappogue Castle Co.、アイルランド
 
 
 
ロックス(40度、700ml) Locke's
 
ロックスという酒名は、19世紀中葉に盛名を馳せたウィスキー蒸留業者ジョン・ロックにちなんだもの。クーリー蒸留所がそのロックの時代そのままに最近復活させた銘柄。ライトでメローな香味が楽しめる佳酒。同名のブレンデッドがある。
 
ロックス蒸溜所博物館として再現されたブリュスナ蒸溜所は、1757年に開設、その5年後に操業を始め、1843年蒸溜所の管理権がジョン・ロックに移ってから事業が拡大、1920年代末まで隆盛を極めた。しかし、その後経営状態が悪化し、他の蒸溜所が相次いで閉鎖に追い込まれる中、50年代まで持ち続けたが、1953年に生産がストップ、58年管財人の手に委ねられ暫く豚小屋になっていたが、82年に地元の協力によって最盛期の蒸溜所の様子を紹介するロックス蒸溜所博物館として再現され、現在に至る。
 
ギルベガンのほぼ中央を流れるブリュスナ川のたもとに、白亜の外壁と煉瓦造りの四角い煙突のある建物。ミッドランドの観光スポットである。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 
 
 
マギリガン(43度、700ml) Magilligan
 
マギリガンは、クーリー蒸溜所が英国の独立系瓶詰め業者イアン・マクロード向けにボトリングしたシングルモルト。クリーンだが、麦芽風味豊かでエステリーな酒。
 
フランスの酒類販売業者ソシエテ・デュガ社の定番でもある。
 
香り:甘く濃厚だが、鼻にはつかない。フルーティ。甘いライムジュース。微かに草のようなピート香。
 
味 :ソフト、フレッシュ、枕のよう。非常にクリーン、マシュマロ。
 
後味:軽くて甘い。ビスケット風味。ややトーストっぽいドライさ。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 
 
 
ナジェーナ(40度、700ml) Na-Geanna
 
1998年、コニャックのブランドとして著名なヘネシー社が発売した、ピュアモルト。ヘネシー社の創業者リチャード・ヘネシーの出身地、アイルランドへの思いから生まれたモルト本来のリッチな風味と豊かなまとやかさを持つ。同社ブレンダーが、7世代に亘りコニャック造りで培った技術でブレンドした、華やかな余韻が広がる味わい。ナジェーナとは、ゲール語で”野鴨”に由来する言葉。
 
18世紀初頭、イギリスの支配下にあったアイルランドから自由を求めてフランスに渡った若者達がいた。アイルランド古来のゲール語で「ナジェーナフィエン(渡り鳥)」と呼ばれる冒険心溢れる若者達の一人がリチャード・ヘネシー。この逸話に銘を得、同社に於ける「今も変わらない祖国への思い」から生まれたアイリッシュ・ウィスキーのユニークなニューフェイスだ。
 
原酒はクーリー蒸溜所産。ナジェーナの原料はアイルランド中央部で栽培されている大麦。ウィスキー造りに欠かせない水は清流・クラン川の物を使い、モルト(水分を与え、発芽させた麦芽)は石炭のみで乾燥させるため、スムースな味わいのモルトに仕上がるのだという。
 
因みに「ヘネシー」という名、ケルト神話に登場する愛の神「アンガス」の末裔といわれているアイルランドを代表する由緒在る名の一つ。リチャード16歳の時アイルランドは英国との戦いに敗れ、祖国アイルランドの辿る苦悩に満ちた運命を目の当たりにした。そして、20代半ばでフランスに渡り、やがて同地にてヘネシー社を創業。コニャックの製造・販売によって大成功を納める事となる。
 
Hennessy、フランス
 
 
 
セインズバリーズ(40度、700ml) Sainsbury's
 
セインズバリーズは、クーリー蒸溜所が英国スーパーマーケット、セインズバリー向けにボトリングしたシングルモルト。
 
リッチな香味、スムースなのど越しが楽しめる佳酒。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 
 
 
シュリーヴ・ナ・グロック(40度、700ml) Slieve na gCloc
 
シュリーヴ・ナ・グロックは、クーリー蒸溜所が英国の酒類販売業者オッドビンズ向けにボトリングしたシングルモルト。酒名は”岩山”の意。蒸溜所オフィシャルボトル「カネマラ」同様に、ピート香の強いキャラクターを呈している。バーボン古樽熟成。ソフトで塩辛いアロマ、フルーティで微かにトフィー様の風味を呈する。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 
 
 
スレイニー・モルト1991年(60.2度、700ml) Slaney Malt
 
アデルフィ社「リムリック」シリーズを構成する一品。何れもカスクストレングス。シリーズ名の「リムリック」は、1820年に創立され1905年に閉鎖した蒸留所の名前。
 
構成内容は以下の3種。特にアイリッシュのシングルグレーンは珍しい。
 
□スレイニー・モルト1991年
□シュア・ピーテッド・モルト1992年
□シャノン・グレーン1991年
 
何れも、クーリー蒸溜所の原酒を購入して独自に熟成させたもの。
 
スレイニー・モルトは、1991年蒸留、1999年瓶詰の8年物で、ファーストフィルのバーボン古樽熟成。ソフトでスムース、フレッシュな香味が楽しめる佳酒。
 
Limerick Ditillery Ltd.(Adelphi)、フランス
 
 
 
シュア・ピーテッド・モルト1992年(61.1度、700ml) Suir Peated Malt
 
アデルフィ社「リムリック」シリーズを構成する一品。何れもカスクストレングス。シリーズ名の「リムリック」は、1820年に創立され1905年に閉鎖した蒸留所の名前。
 
□スレイニー・モルト1991年
□シュア・ピーテッド・モルト1992年
□シャノン・グレーン1991年
 
何れも、クーリー蒸溜所の原酒を購入して独自に熟成させたもの。
 
スレイニー・モルトは、1992年蒸留、1999年瓶詰の7年物で、ファーストフィルのバーボン古樽熟成。ビッグでスウイート、昔のアイラモルトを彷彿とさせる豊かな香味が楽しめる逸品。
 
Limerick Ditillery Ltd.(Adelphi)、フランス
 
 
 
ティルコネル(40度、700ml) Tyrconnell
 
ブッシュミルズの好敵手として、1992年に世に出た銘柄。1989年から生産を始め、1992年12月1日に、その第一号ウィスキーが世に送り出された。この銘柄は、かつてデリー蒸溜所の主力ウィスキーだった。名前は群雄割拠の時代が続いた古代、アイルランド北西部を領土にしていた最強の王国ティルコネル(オドネルの土地の意)に由来している。クーリー蒸溜所で大麦麦芽を単式2回蒸溜。もともとは、ワット蒸溜所の有名な銘柄だった。
 
蒸溜所のオーナーだったワット家は大変な馬好きで、その名にあやかり「ティルコネル号」という競走馬を所有していた。1876年、競馬のアイリッシュクラシックでその馬が100倍の高配当が付く劇的な勝利を得て、伝説の馬として名声を馳せた。
 
そこで、デリー蒸溜所のウィスキーに「ティルコネル」の名が付けられたと言う。ブルーのラベルには、5つの赤い星の下に真っ先にゴールを切る名馬の絵が描かれている。ラング氏は現在アイル・オブ・アラン蒸溜所(スコットランド)マスター・ブレンダーに就任している。
 
3年物と4年物のシングル・モルトを使っているようで、麦芽(モルト)香が充満しており、フレッシュでスムーズな味わい。風味はやや直線的。歯切れ良く、ドライなアフターテイストが楽しめる。ヴァッティングはシーバス社の主流ブレンデッドウィスキー、パスポートを生み出したジミー・ラングの手で行われたと言う。
 
Cooly Distillery、アイルランド
 

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