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思ひ出 (1) 再会

僕の実家から歩いて3分弱。
子供にとっては少し急な坂の中腹に、幼馴染のH君の家があります。

彼と出会ったのは、小学校に上がる前のことですから、多分、幼稚園生くらいの頃だったかもしれません。初めての出会いはケンカでした。単なるオモチャの取り合い。
どうして仲直りしたのかは覚えていませんが、家が近かったこともあって、すぐに仲良くなりました。本当にいつも一緒。
彼は一人っ子だったので、近所に住む同級生の僕は、彼の両親からも歓迎され、頻繁に彼の家に泊まったり、彼も僕の家に泊まったり・・・。
彼の家は立派だったから、彼の家に遊びに行くことが多かったかな(笑)

不思議なことに、彼と同じクラスになることは一度もなかったのですが、僕の毎朝の日課は彼の家に行くこと。彼と一緒に坂道を登って小学校へ通うためです。
もちろん下校も一緒。帰ったらスグに互いのどちらかの家で宿題をして、日が暮れるまで遊んでました。

中学生になると、僕は近くの公立中学校へ。
彼は私立の中高一貫校へ進学しましたが、日曜は小学校の頃と変わらず一緒にいました。
やがて互いの部活動が忙しくなったこと、中学の友達が増えたこともあって、徐々に疎遠になり、僕の高校受験と進学をきっかけに、彼とは全く交流がなくなっていきました。
たまに会っても、手を振る程度。

もう、すっかり別々の道を歩いていたんですね。

そうするうちに、僕は地元の大宇へ進学し、彼は県外の大学へ。
僕は彼が何処の大学へ進学したかも知りませんでした。
大学へ進学してすぐに、僕は遠方に引っ越してしまい、その後、彼と会うことはありませんでした。

今現在に至るまで・・・。

昨年の年末、すでに過去記事でも紹介したように、久しぶりに帰省しました。
もちろん沖縄のBarでモルトを愉しむ、という目的もありました。
ですが、別の目的もあって、自分の故郷の風景、特に幼少時代~高校生まで住んでいた僕の原風景を見たかったんですよね。

実家があった周辺の風景は、信じられないくらい変貌していました。
もう僕が覚えている街ではなかったんですよね。今,そこに住む人々の街。
それでも、まだ変わらない場所もあって、記憶を頼りに歩いてみました。

幼馴染H君の家も残っていて、その横には新しい道と新しい家々。
そこから坂の上に伸びる階段があって、街を一望できる高台に続いています。
H君の家の前を通り過ぎ、高台から街の見渡します。
知らない道、知らない家、知らないマンション。。。
懐かしい風景に、どこか異様なキモチになる新しい見慣れない物体。
(もう、見るのはやめよう)
そう、思った僕は、階段を降りて元来た道を戻ります。
そしてH君の家の前を横切ろうとしたとき・・・。

カチャッ
と、ドアが開き、H君の家からハッとするような綺麗な白髪の女性が出てきました。
手には携帯を持ち、郵便受けに手を伸ばそうとしています。
「あっ・・・」
思わず声をあげてしまった僕。
その声に、少し驚いたように顔を上げ、僕を見つめる女性。
「・・・?」
しばし不思議そうな顔をした女性の表情が、みるみる綻んでいきます。
「まぁ~ッ!? ひさし君じゃないの!? どうしたの?」

懐かしいH君のお母様でした。
重ねた年月を感じる御髪と、幼い頃の記憶のままの笑顔。
そして、笑顔とともに、H君のお母様の目から涙が溢れていました。

家に招いていただいき、僕もお言葉に甘えてお邪魔することに。

華道と茶道の師範代でもあったので、すごく上品な方で、家の中もいつも綺麗で和風の心地よい香りに包まれていました。もちろん今でも。玄関を上がると当時の記憶が一瞬のうちに蘇ります。

何から話したらいいのか分からない、話したいことが沢山ある。。。
お母様も僕もそんな感じだったんでしょうね。
少しづつ、でも途絶えること無く、これまでの時間や近況を話しました。
H君は県外にいるようで、あまり帰ってこないんだそうです。
「男の子はダメね。高校生くらいから、どっかに飛んでっちゃって、どこで何してるか全然わからないもの。」
・・・何とも耳の痛い話で。

僕が思い出した数々の記憶。
その中に「ウイスキー」が登場します。

幼い頃、H君の家で宿題をしていたときのこと。
ちょうどご両親が留守で、留守番がてら宿題をしていたんですね。
不意に、H君が彼のお父様の部屋に行こうと言い出しました。
彼のお父様は、ある石油会社の偉いさんで、立派な書斎をお持ちだったんですよね。
そして書斎には、立派なバーカウンターとズラッと並んだウイスキーのボトル。
H君は、バーカウンターの隅に置いてある、おそらく2リットルくらいの樽を指差して、「アレ飲んでみようよ。」と言いました。
好奇心旺盛、イタズラ好きな僕らは、さっそく樽の下にあるコックをひねります。
中から出てきた茶色の液体。
「何のジュースかな?」なんて、2人で話していました。
「酒」を知らないくらい幼かったんですね(笑)

飲んでみて、ブーッと吐き出したのは言うまでもなく・・・。

そんな記憶が蘇ってきます。
と、同時に強烈な興味が湧いてきました。
(あのボトルの数々、今、どうしても見たいっ!!)

そこで、H君のお母様に尋ねてみます。
「おじさんは、お元気でしょうか?」

少し悲しそうな表情を見せ、笑顔でこう仰いました。
「実は3年前に・・・ね」
胃ガンだったとのことでした。まだ63歳。非常に快活で朗らかな方だったので唖然としてしまいました。お話によると、ガンと共存していく療法をとられていたようで、亡くなる直前まで元気に仕事をしていたそうです。

ここでドカーンとオールド・ボトルの写真でも披露できれば、ブログ的に楽しくなるんでしょうけど・・・。スイマセン、僕はこれ以上何も聞くことができませんでした。
あのボトルの数々、いったい何があったんでしょうね。
今となっては謎のまま。80年代前半の話です。

そして、少しずつ生前のお話を静かに伺います。

長くなったので、今日はこの辺で。
この話、ウイスキーとは違う方向に進みますが、よろしければ明日もお付き合いください。

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