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097. キルホーマン / Kilchoman

2012.5.31

 もうすっかりアイラで目覚める朝にも慣れたこの日。この日はホステルから2番目に近い蒸留所であるキルホーマンのオープンデイです。

 ホステルから1番近いブルイックラディまでは歩いて1時間足らずで行けますが、2番目に近いとなると距離は一気に3倍。徒歩で行こうとすると3時間はかかるとみていい距離です。
 その上、ご存知の通りキルホーマンはアイラ島で唯一の内陸に位置する蒸留所。アイラ島の西側は、湾に沿った形でしか幹線道路が走っておらず、当然内陸に向かって走る道路までバスは走っておりません。
 そういうわけで移動手段は徒歩のみ。当初は11時のツアーに間に合うために8時にはホステルを出ようと思っていたのですが、思えばこの日の予定はキルホーマンのみ。次の時間のツアーでもいいか、と朝のだらけた頭でのんびりしたため、結局宿を出たのは9時前に。まぁのんびり行こう、と鼻歌まじりで歩き始めます。

 しかし、こういう時に限って親切な方に拾ってもらえるもの。宿を出て5分もしないうちに、ボウモアまで行くという地元のおばちゃんに拾ってもらえて、キルホーマンまでの分かれ道まで乗せてもらえる。


(分かれ道に立つ看板。蒸留所まで5マイルの看板の周りでは馬が優雅に草を食んでいる)

 ここまで乗せてくれたおばちゃんにお礼を言って、さて5マイル歩いて行こうかな、と身体を翻すと、なんとおばちゃんの車の後ろを走っていた車が、曲がり角のところに止まって、こちらを眺めているではないか。
 すると、運転席のおっちゃん。おばちゃんの車を降りた私の姿を認めると、窓を開けて「こっち?」というようにキルホーマンへの道を指差す。私がそれに頷くと、黙って手招きをして招いてくれ、気付くと私は助手席へ。
 見事なまでのおばちゃんとおっちゃんのリレーによって、あれよあれよという間にキルホーマンに到着です。3時間歩くというのは一体なんだったのか。

(蒸留所は「ロッホサイドファーム」という牧場の中に建っております)

(蒸留所までの一本道は車で向かう人たちで渋滞。マイカー規制もあったみたいで、スタッフさんが誘導に奔走していた。おっちゃんの車は無事に駐車することができた)

 見事なまでのヒッチハイクリレーで、11時のツアーに間に合うかな〜とか言っていたのが、着いてみればオープンの10時よりさらに早い時間。ラッキーと思いつつも、少しく時間があまりすぎてしまったな、と思いながらおっちゃんにお礼を言って車を降りると、同じように車を降りたおっちゃん。つかつかと建物の方へ向かって歩き始めると、振り返って私を手招きします。

 招かれるままにおっちゃんについていくと、まだオープン前のはずの建物にすでに長蛇の列が!

(建物の入り口に群がる人、人!)

(中に入ってもご覧の通り人がみつちり!)

 お察しの通り、こちらの列はキルホーマンのフェスボトルを求める列。基本的にその年のフェスボトルは蒸留所のオープンデイに発表されるもの。これまでいくつかのオープンデイに参戦してきた私ですが、これほどの列になっているのを見たのは今回が初めて。改めて、キルホーマンの注目度の高さを感じます。

 しかし私はバックパッカーの身。今まで魅力的な蒸留所限定ボトルなどを目にしても、重いしかさばるし破損の恐れもあるし、というボトルは中々購入をためらってしまうもの。しかし、ここまできたら買うしか無い!送ってくれたおっちゃんと共に長く続く列に並びます。
 
(1時間以上かけてようやくビジターセンターの中に入れたと思ったら、中にはまだまだ長い列が!)

 ゴールかと思った扉がまだまだゴールでは無かったという事実は私を落胆させたものの、それまでの殺伐としたガレージのような場所と比べると、ショップを併設したビジターセンターの中はとてもカラフル。牛歩の歩みも、ウインドウショッピング気分で楽しめるものです。

(中にはアイラ島にかつてあった「ロストディスティラリー」の場所を示す地図も。聞いたことも無いような蒸留所名もちらほら)

 そしてオープンから1時間半も並んだろうか。ようやくレジの前へ。興奮しつつフェスボトルを購入すると、会計を済ませると同時にレジのお姉ちゃんが私の手の甲に、キルホーマンのロゴマークのスタンプを押す。「これなに?」と訊ねると「あなたがもう一度並ばないようにするためよ」と。フェスボトルは一人一本まで、と決められているので、それを徹底するために購入の目印としてスタンプを押しているとのこと。そんなことせんでも、この列をもう一度並ぶ気はないですよ、なんて微笑みながらもようやくゲットしたボトルを手ににやにやです。

 しかし、長大な列を並んでいたために、11時からのツアーの時間はすっかり過ぎていた。そもそも、ビジターセンター内はまだまだ列が渦巻いているので、ツアーの受付をどこで済ませばいいのかすらも分からない。まーしょーがないか。と、まずは蒸留所内を一周してみよう、とふらふらしているとなんと目の前にこちらの方が!!

(創業者のアンソニー・ウィリスさん!)

 思わず買ったボトルを見せたら、すかさずそのボトルを手に取ってサインをしてくれた!「キルホーマンは日本でもとても注目されているよ!」とか、拙い英語で感謝を告げる。びっくりしたけどお会いできて嬉しかった!

 その後も、足のむくままにふらふらと所内を散策。するとスチルハウスを見かけたのでするするーっと中へ。スタッフのお兄ちゃんが3人で談笑をしていて、私を認めると「飲んでるか?」とグラスをこっちへ寄越してくる。「ノー」と答えると、当時、発売されたばかりのマキヤーベイをグラスにどぼどぼ注いでくれて「熱いから気をつけろよ!」と中へ招き入れてくれた。ずっとスチルハウスに置かれていたからか、グラスに注がれたウイスキーもほどよく温まっていた。


(スチルは最小の2基)

(隣に並んでみると再留釜の小ささが分かる。しかし、スチルハウス自体が狭いために全体を撮影することは難しかった)

(2基のスチルの背後にはキルホーマンのロゴが)

 お兄ちゃんたちの視線を気にしつつも、オープンデイだし大丈夫かなー、と通常のツアーの順路を遡るように隣の部屋へと歩みを進めます。

(やけに近代的な印象を与える4槽のウォッシュバック。やはり部屋は狭い)

(そして「アイラで2番目に小さい」マッシュタン)

 勝手に見学を終えてお兄ちゃんたちに挨拶をしてスチルハウスを出ると、もう所内は一周してしまう。時刻はまだ12時を過ぎた頃。どうしたものか、と思いつつふらふらともう一周。

(最初に人で埋まっていたスペースはガレージではなくフロアモルティングスペースとのこと。人出もだいぶ落ち着いて、バンド演奏が行われていた)

(このスペースはフィリングストアとしても使われているようで、後ろの方には巨大なタンクが設えてあった)

 こちらのスペースでは13時半からポートエレンのボトルが出品されるオークションが開催されるとのこと。参加するような予算は無いけれど、一体どんなボトルなのか、どのくらいの金額で落札されるのか、とても興味深いイベント。
 しかし、所在なく所内をうろつくのもそろそろ限界。結局オークション見学は諦めて帰路につきます。

(黒い石壁と、近代的な建物が入り交じった独特の雰囲気のある蒸留所でした)

(そして隣には馬やら牛やらの厩舎もあり、かぐわしい香りも漂ってくるなんともハイブリッドな蒸留所)

 帰り道では狭いあぜ道をてくてくと歩く。車一台が通るのがやっとのほどの幅で、後ろから車が近づいてくると道を外れて、車が通り過ぎるのを待たなくてはいけない。すると、偶然にも車内から声をかけやすい環境を作ってしまい、みんな「乗る?」と訊ねてくれる。それはとても嬉しいのだけれど、そんなに早く帰ってもすることがない。「サンキュー。バット、ノーサンキュー」なんて答えながら5回は断った。散々、歩きまわっていたスペイサイドの蒸留所を回っていた時には想像もできないほどの贅沢な断り。結局3時間かけてゆっくり戻りました。

(この旅初めてのボトル購入となった「キルホーマン アイラフェス 2012」!)

#Kilchoman

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