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057. ブレイヴァル / Braeval

2012.05.09

 タムナブーリン蒸留所に簡単に振られてしまった私が、次に目指すはブレイヴァル蒸留所です。

 タムナブーリン蒸留所から、ブレイヴァル蒸留所のあるチャペルタウンまでは5マイル足らずの行程。一時は辿り着くことさえ諦めていた道程ではありますが、グレンリベット→タムナブーリン間を乗っけてくれたお兄ちゃんのおかげで、やる気が少しく再燃。タムナブーリン蒸留所のあるトムナブーリン村(ややこしい。。)を出て、少し歩いた辺りで、車を捕まえるために親指を立てます。

 最初に通った紳士は、私に気付くや笑顔で手を振ってくれはしたものの、止まってはくれない。結局止まってくれないにしろ、なにかしらリアクションがあるだけでもだいぶ心が穏やかになるものである。この辺の感覚は、ティッシュ配りのバイトなんかに通じるものがあるな。などと、一人「ヒッチハイクとティッシュ配りは同じ」みたいな感覚を得た気分になって、少し気も楽になる。
 そんなこんなで、また一台。後ろから近づいてきたので、笑顔で親指を立てると、なんと、今度は止まってくれるではありませんか。
 自分単独では初めてとなるヒッチハイク成功に浮き足立ちつつも、車に近づき、目的地を告げようと窓に向かって身を乗り出した所、中にいたひげもじゃのおっちゃんは、私の言葉を聞こうともせずに、まずドアを開けて、乗れ、というジェスチャーをする。私が、それに従って助手席に乗り込むと、車を発進させ、それからゆっくりと「どこへ行きたいんだ」と。
 まさか行き先も聞く前に乗せてくれるとは思わなかったので、少しく戸惑ったのだが「チャペルタウンまで」と言うと「オーケー。道が分かれる所で降ろすよ」と言ってくれた。

 マークという名の彼は、この後パースまで行くと言っていた。かなりの長距離移動である。私も、拙い英語で必死に色々話しかけるのだが、彼の訛りはとてもひどく、それは英語力云々以前の問題で、言語を使ったコミュニケーションはかなり難しかった。

 それでも、あっという間に目的の分かれ道の箇所まで来て、マークは私を降ろして「この道まっすぐ行けよ」と言うと、手を振って車を発進させる。なんにせよ、初めてのヒッチハイクは大成功である。

 とは言え、ブレイヴァルへの道程はまだ2マイル半ほど残っている。今にして思えば、もう一台くらい捕まえてもいい距離だが、この時は、初めてのヒッチハイクが成功で浮かれていて、結局そこからてくてくと歩くことに。1時間ほどかけてブレイヴァル蒸留所に到着です。


(クリーム色の壁が優しい印象を与えます)

 長く続く道のどん詰まりに建つこちらの蒸留所。両サイドに殆ど何も無いような田舎道をずーっと歩いてきた先にあって、これ以上先に道はない。まさしくどん詰まりにあります。途中、民家の庭で作業をしていたおじちゃんがいたので「蒸留所ってどこ?」と声をかけてみたら「この道まっすぐ」と教えてくれた。「サンキュー」と行こうとしたら「蒸留所ってどこの蒸留所だい?」とわざわざ確認してくれて「ブレイヴァル」と答えると、大きく頷いてくれて嬉しかった。


(玄関のプレートには「THE BRAES OF GLENLIVET」の文字も)

 スコットランドで最も標高の高い蒸留所、ということですが、感覚的にはそんな感じはしない。ダルウィニーやベンリネスなんかはとても高い位置にある感覚があったのだが。それもこれも、広がる田園風景のせいだろうか。

 どこからか中に入れないかなー、とうろうろしていると窓の向こうでコーヒーかなにかをすすっているお兄ちゃんと目が合う。怪訝な顔をされたのだが、そんな表情にはもう慣れきっている。こちらは満面の笑顔で「入り口どこ?」みたいなジェスチャーをしたら、お兄ちゃんも指で指し示してくれて、そちらへ向かって行くとドアが。大人しく待っていると、先ほどのお兄ちゃんがほどなく出てきてくれて交渉開始。
 ちょうど、交代の時間帯だったらしく、二人いたうちの一人のお兄ちゃんは、私のことをからかうように面白そうな表情を浮かべると、残ったお兄ちゃんに「じゃあ、おつかれ〜」みたいに言ったかどうかはしらんが、そんな感じで帰って行った。残されたお兄ちゃんに交渉して「写真はダメ、見るだけだぞ」と釘を刺されて、しかし中は見せてくれることに。

 あまり乗り気ではなかったように見えたのだが、ミルマシンからスタートしてスチルに至るまでの行程を全て見せてくれて素晴らしいツアー。それぞれの部屋は重い鉄扉で区切られていて「おいしょ」っと力を入れないと引けないほど。その度に「気をつけろよ」と言ってくれて楽しく見学することが出来た。
 一通り見せてくれたら「後は好きにみてな」と、彼はスチルの前にあるコンピュータルームに帰って行く。私も、ある程度好き勝手に見せていただいた後に、彼のいるコンピュータルームに入っていったら、彼は、モニターに映し出されるスチルの図柄なんかを指差しながら「いま、こうやって、これがこうなったらこうするんだよ」みたいに教えてくれた。残念なことに、あまり理解できなかったのだけれど。

 そうこうするうちに、コンピュータルームにひとりのおっちゃんが入ってきて、私に声をかける。
 お兄ちゃんがどう言ったのか分からないけれど、とにかく私のことを説明してくれたようで、おっちゃんもかなり人の良さそうな笑顔で「じっくりみていいぞ」と言ってくれる。さらに「ここまでどうやってきたんだ?これからどこへ行くんだ?」みたいな話をして「ヒッチハイクでここまで来た。今度はトミントールに行くつもり」と答えると「じゃあ満足いくまで見学したら声をかけてくれ。送っていくよ」とまで言ってくれる。
 なんていいおっちゃんだろう、と感動していたのだが、さらに驚くことにこのおっちゃん。なんと、ここブレイヴァル蒸留所のマネージャーだというのだ。
 私のようなバックパッカーまがいの人間に対して、一つの蒸留所のマネージャーともあろう人が、ここまで歓待してくれるなんて、本当に感動ものだった。

 最初に「写真はダメ」と言われたけれど、このマネージャーの優しさにつけ込んで「スチルだけ」とお願いして一枚だけ撮らせていただいた。


(2:4のスチル。折れ曲がりやや上向きに伸びるラインアームは、マクダフ蒸留所のモノを彷彿とさせる)

 すっかり満足してお兄ちゃんにお礼を言ってマネージャーの待つ部屋をノック。「もういいのかい?」と訊ねて、外へ案内してくれます。


(本日2度目のシーバスカー)

 マネージャーの運転する車に乗ってトミントールへ。車内では「ウイスキーは好きか?」「どこのが好きだ?」みたいなトークから「どれくらい蒸留所で働いてるのー?」とか「なんで蒸留所で働き始めたのー?」みたいなプライベートなトークまで。果ては「なんで蒸留所名変わったの?」とか「シングルモルトとしてのリリースはしないの?」みたいな蒸留所の経営の話まで。3割程度しか理解できなかったけど、とても貴重な時間を過ごせました。
 トミントールの町に到着して「よい旅を!」と彼とは別れます。楽しいツアーだったー。

#Braeval

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