「新しいワインは新しい革袋に」(聖書ルカ伝5章27~39節) もし新しいワインを古い皮袋に入れたら、新しいワインは革袋をはり裂き、流れ出てしまうであろう、新しいワインは、新しい革袋に入れるべきである──。 このキリストの教えは、醗酵中に発生した二酸化炭素がまだ残っている新しいワインのことを実に科学的に表しています。同時に新しい概念を受け入れるには、それに対応する柔軟な心が必要であることを教えています。 本コラム『ワイン畑の四季』も最終回となりました。最後にイギリスのワイン評論家、ヒュー・ジョンソン(Hugh Johnson, 1939年~)の文章を紹介して、終わりたいと思います。 「農民で芸術家、労働者で夢追い人、快楽主義者(ヘドニスト)で被虐性愛者(マゾヒスト)、錬金術師で会計士—–ワインをつくる者は、これを全部兼ねている。ノアの大洪水以来、それは変わっていない。」 『 ワイン物語[上] 』(日本放送出版協会、小林章夫・訳)の序文です。 そしてこのワイン物語の最後はこのように結ばれています。 「忘れてならないのは、ワインは自然界の奇蹟の一つで、人間と一万年もつきあっていながら、いまだに未知の要素をもち、またあらゆる食物のなかでワインだけが自立した生命をもっているからこそ、人間はこれを神聖視するという点なのである。農民も芸術家も、勤勉家も夢想家も、快楽主義者もマゾヒストも、錬金術師も会計士も—–こういったすべての人々がワインを育てるのである。ノアの洪水以来、ずっとそうだったのだ」(『ワイン物語[下]』)