マッカランは短時間で済んでしまったし、今晩の宿泊先、パースまで距離をかせぎたかったので、次は『エドラワー蒸留所』を目指すことにした。『A95』から『A9』に抜け、国定公園のグランピアン山脈を大きく廻り込む、ロング・ドライブ・ルートとなる。
ヒースロー空港のカウンターの青年が薦めてくれたとおり、モルト・ウヰスキー・トレイルは、カッスル・トレイルとかなり重りあう部分が多い。Ballindalloch Catsle(バリンダロッホ城)の標識を目にしたわたしとしては、ビューーーティフルなお城を、せかっくだからぜひとも観てみたかった。バリンダロッホ城はスコットランドでも5本の指に入る美しさだと、ガイドブックは褒め称えている。けれど、良さんはとにかく先を急ぎたいらしいのだ。わたしの希望は軽く受け流され、車のスピードは緩められること無く、お城の前を素通りである。
(あ~あ。ドライバーの良さんには申し訳ないけれど・・・、わたしは朝からティスティングを重ね、羊ばかり眺めていたので、眠くなってきちゃったなぁ。お城もパスされちゃったから、もう、ふて寝するもん)
わたしが3時間後に目覚めると、このスコットランドの山麓の変わりやすい天候をくぐりぬけ、ロードレーサーの気分で車を走らせてきたのであろう良さんは、『サーキットの狼』の風吹のように、眼光鋭く寡黙になっていた。その、あまりに寡黙な沈黙の重圧に負けそうになったけれども、Blair Castle (ブレア城)の標識が見えたところで、わたしはもう一度お伺いを立ててみた。ブレア城は英国で唯一、私兵を持つことを許されている、スコットランドきっての名家であり、現公爵はスコッチ業界の精神的リーダーとしても名がある人物だという。(スコッチ絡みなんだから、気が向いてくれるかもしれない)・・・その提案も、あっけなく却下された。
まもなく、Pitlochry(ピトロッホリー)の町へ。ピトロッホリーは古くからの保養地である。こじんまりとした可愛らしいショップが列なるメインストリートは、端から端まで歩いても10分ほどとのこと。(旧きよき時代の軽井沢は、きっとこんな感じだったかもしれない)
「それなら良さま、エドラダワー蒸留所はこの町から枝道に入って3マイルほどだから、帰り道にもう一度ここに立ち寄ってウインドウをのぞきたいなあ。エドラダワーで目的を達成したあとなら、OKじゃない?」
わたしは、しずかに、しなやかに、しぶとく、交渉を試みた。が、しかし、OKが出るよりも先に、わたしたちはエドラダワーにつづく『A924』の分岐点が見つけられず、迷子になってしまったのである。
良さんの貴重な貴重な時間が刻々と過ぎてゆき、比例して、わたしがピトロッポリーを観光出来るかも知れない時間的余裕が消えてゆく。・・・二人の思惑は交差したまま、エドラダワーへの道は近くにありて、かくも、はてしなく遠いのであった。