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シンプル イズ ベスト

 アバディーンは、ロンドンに次いで英国第二位の生活水準の高い都市であり、花崗岩を用いて造られた、立派なお屋敷ばかりが並んでいるそうである。また、黒毛牛肉のステーキが美味なのはことに有名で、本場の『アンガスステーキ』と豊潤なスコッチウヰスキーを楽しまずしては、アバディーンに来た意味がないと、ガイドブックは勧告している。
 あぁ、けれどもわたしたちは、空港から一路、ウヰスキー・トレイルへまっしぐらなのだ。まずは、車で移動する場合の距離間を認識し、本日のB&B(ベット&ブレイク・ファースト)にチェックインすることが肝心である。

 レンタカーは日本からインターネットで予約してある。(日程と借りる場所が決まっているなら、日本で予約したほうが確実で、料金も割安。さらに、マニュアル車が主流でオートマチック車の数が限られているので、オートマチック車のほうが料金設定が高い)
 『Hertz』のカウンカーですんなりと手続きを済ませると、わたしたちには、「フォード」のメタリックスカイブルーの「フォーカス」が用意されていた。
 英国は日本と同じく左側通行で、道路や標識が整備されているうえ、なにしろあまりにも交通量が少ないので、自由気ままに自分のペースで運転できる。(とは、ドライバー良さんの感想)
 交差点には信号なんて無くて、常に時計回りの一方通行で進入し、目的の方向へ走り抜けるだけの、ロータリー式『ラウンドアバウト』が採用されている。進入時には、運転手同士が近距離でアイコンタクトしあうのみである。
(信号が無いって、なんて、素晴らしい!)
 さらに、モーターウェイ(高速道路)には、出入りのゲートも料金所も無い。ここからは高速で走行していいですよという、シンプルな定義のみである。
(高速料金を支払わないって、なんて、素晴らしい!)

 わたしたちは内陸に入る『A96』を北上する。
 ところであなたは、北海道の美瑛町に行かれたことがあるだろうか?青い空を背景に牧歌的な緑の丘が広がり、その美しさから、いまや、大人気の観光スポットであるが、トップシーズンの英国のカントリーサイドの美しさは、その美瑛町をエンドレスにつないで、電柱だの電線だのといった余計なものは排除して、夥しい数の牛と羊と、丹精こめたお庭つきの、可愛らしいカントリーハウスを点在させた感じである。どこをどう切り取っても、遠近のメリハリがある、壮大なパノラマの景観なのである。
 道路脇はすべて牧場である。いや、牧場の合間を縫うように道路が通っているということだ。もちろん、ガードレールも、ファームとの境目らしきものも見当たらない。
(ガードレールが無いって、美しい!)

 それにしても、日本では『口蹄疫』だ、『狂牛病』だと、あれだけ騒がれているのに、ここでは牛も羊も隔離されるどころか、サファリパークさながらで、数mの近距離で草を食んでいる牛と、たびたび目が合ってしまう。
 たぶん我々日本人が、お米に関するどんな問題を抱えたとしても、何とかそれを乗り越え、きっと、ずっと、お米を食べ続けるように、フランス人がフィロキセラ(葡萄の樹に付く害虫。過去に壊滅の危機に陥った事実がある)を克服して葡萄を守り、食卓からワインが消えることなく、欠かさず飲み続けたように、この土地の人々は、永遠に牛や羊と生活を共にし、保護し、ローストビーフとシェパーズパイを食べ続けるであろう。そこには、リスクがあるからと拒否するわけにはいかないだけの、大きな理由があるのだ。

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