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夢でゴッホに会う

先週の土曜日のこと。

BS-2で米アカデミー賞のダイジェスト版が放映されていた。
映画サークルのY氏に録画してもらった完全版を見せてもらう予定だったので、「見ちゃいけない、見ちゃいけない・・・」と思いつつ、見る(かなり意志が弱い)。
『ミルク』で主演男優賞を受賞したショーン・ペンのスピーチに涙。
同性愛者を迫害する人たちに対し「末代まで恥じるべき行為だ!」と力強く訴えてた。
(この映画は初の同性愛者の市議会議員の生涯を描いたもの)
ただのチンピラ顔俳優だと思っていたのに(失礼)、いつのまにこんなにイイ男になったんだろう。

23:00になって番組は終わり。
既に目はしょぼしょぼしていたのだが、1時から放映されるはずの黒澤明監督の『夢』が観たくて、夜更かしを決意する。
こういうときは酒だ。酒を飲むのだ。
冷蔵庫の中に放置されていた怪しい黒ビールを飲み干すが、まだまだ1時にはほど遠い。
近くのコンビニに買出しに行く元気はないしー・・・と思い食器棚を物色していると、去年屋久島に行ったときに買ってきた、焼酎「三岳」を発見!
「けっこうキツイのよね~」とか「ニオイが独特なのよね~」などとひとり言を言いながら、お湯で割っていただく。
つまみは夕食の残りのトマトソースパスタ(それつまみじゃないって!)
美味しかった。

そして満腹になったところで、当然の流れでコタツでうとうと・・・。

ぼんやりした私の耳に入ってきたのは、何とも言えない摩訶不思議な笛の音。
むかしむかしにタイムスリップしたような・・・。
やっとの思いで目を開けると、そこには「狐の嫁入り」の行列が。
不気味なお面や化粧を施した、人とも狐とも見える行列が、ピロピロ~と進んでいくのでありました。
ぞっとするほど美しく、奇怪な映像。
『夢』の第一話「日照り雨」が始まっていたのですね。素晴らしい映像美。さすがだなあ。

私のお目当ての「鴉(からす)」は第5話目に登場。
画材を抱えた男が、美術展でゴッホの絵を観ているうちに、絵の中の世界に入り込んでしまう。
男は、太陽が光り輝く美しい田園地帯を、ゴッホを探してトコトコと歩き続ける。
そして畑の中にゴッホはいた。絵の具だらけの汚れた服で、一心不乱にキャンパスにむかっている。
耳には包帯が巻かれている。
「お怪我をされているようですが、大丈夫ですか?」
「自画像を描いていて、耳が上手に描けないから切り落としたのだ」
そんな言葉を交わした後、ゴッホはいなくなる。
厚く塗り込められた絵の具の村の中で、ゴッホを探す男。
そして現われた風景は、「カラスのいる麦畑」。カーク・ダグラスがゴッホを演じた映画で、自殺をした場所だ。
道の向こうを早足で歩くゴッホが見える。どんどん小さくなっていく。丘を越えて見えなくなってしまった・・・。
ところでおしまい。

見えなくなった後に銃声が聞こえるのではないかとハラハラした。
そんな展開だったら泣いちゃったかもしれない。
思っていたよりも太めだったせいか逞しく見えたゴッホだけど、やっぱり繊細そうな人だった。会えてよかった。

この『夢』、黒澤明監督が子どもの頃に見た夢を映像化したものなのだとか。
と言うことは監督は夢でゴッホに会えたんだ。羨ましいなあ。
でも、監督が映画にしてくれたおかげで私も会えた。ほんとうにありがとう。

ゴッホの最後の作品(かもしれない)と言われている「カラスのいる麦畑」。
不気味な黒い鳥の群れや、途中で途切れてしまっているように見える小道が、死を予感させるような不吉な雰囲気をかもし出しているのだろう。
燃えるような麦畑の上に広がる黒い闇は、ゴッホの心を侵食する闇だったのかしら。

#映画

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