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豆とマメ・・・

ある 2月のカレンダーに書かれた、節分の季節らしい言葉、

『マメに気配り忘れずに』

と、書いてあるのを見て、僕はあることを思い出した・・・

僕が18歳の頃、一つ年上の先輩が、岐阜一番の繁華街で

ソープランド嬢をしていた。

思い出したのは、彼女等特有の休日、いわゆる生理休暇に合わせて

岐阜に遊びに行った時の話だ。

髪の毛が長くスタイルの良いその先輩は、なかなかとっぽい人だった。

初めてその彼女の部屋に上がった際、いきなりある雑誌の束に目がいった

それは、その繁華街で働く女性達の店の広告に、

彼女等の裸体が載るもので、ところどころにホストクラブで働く面々も

載っている、いわゆる岐阜の夜の雑誌だった。

興味津々にそれを見る僕に彼女が言った。

「どの男が、それぞれの店のナンバーワンかわかる? 当ててごらん。」

女性の多くは目が隠されていたものの、男性達はそのまま。

僕は皆似たようなダブルのスーツを着た彼等の写真を、食い入るように

見ながら当てだした。

しかし、なかなか当たらない・・・

結局、ひとつも当たらなかった。

30軒ほどのホストクラブがあるのにだ。

苛々しだした彼女が一言。

『さぁ、飲みに行くわよ』

居酒屋から始まり、何軒かでヘネシーの水割りを飲んだ後、

まだBARというものを知らなかった僕を、

あるバーテンダーに会わせるために、彼のBARへと連れて行ってくれた。

そこには僕と同じ年頃の若い男性が一人、カウンターの中に立っていた。

いま思うとそこはカジュアルなスタイルのBARだった。

話を聞くと彼がオーナーで、元ホストだったという。

ある店でしばらくナンバーワンもやっていたが、

その頃手にしたお金で独立したという方だった。

まだバーテンダーに目覚めていない僕にとって、そこで過ごした

1時間程の時間は、全てが衝撃的だった。

カウンターに座っていたのは僕以外が全て女性。

そして皆が彼女と同じ仕事をしている方達。

会話も凄かった。

所詮 田舎で粋がっていた不良少年には、とてつもなく大きい

違和感を感じる恥ずかしい夜だった。

毛皮をまとった女性達に別れの挨拶をし帰る際、一人の女性に言われた。

『あんたホストやるの? やるなら誰よりもマメな男になりなよ。』

その言葉で気がついた。

だから当たらなかったんだ・・・

女性にとって大切なのは顔やスタイルだけではなかったのだ。

翌日岐阜駅まで送ってくれた彼女に、笑いながらとどめを刺された

『だからアンタはホストなんかになれないんだよ』 と。

自分の身体を使うことを仕事とする彼女等が、ホストに求めるのは

一人の女性が、一人の男性に求めるそれとは違うのかもしれない。

だからこそのマメなのか。

独特な環境にある彼女等だからなのか。

18歳の僕にはよくわからなかったのかもしれない。

それから数年後、彼女の親友が白い粉で懲役に行ったと噂で聞いた。

岐阜に遊びに行ってから20年以上時間が経ったが、

いま彼女等はどうしているのだろう。

岐阜から帰って僕が直ぐにした事は、毎日見る鏡にマジックで

『マメ』

と書いた事だったのが懐かしい思い出である・・・

#BAR

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