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バーで飲もう!“思い出の酒”篇

貴方にはどうしても忘れることの出来ない“思い出の酒”がありますか?
それは、ウイスキーやブランデー、ワイン、シャンパン、酒、焼酎、スピリッツ。カクテルでもビールでも構いません。 これまで出会ったお酒の中で、『これだけは外せない!』と語れるものが心の中にあるでしょうか?
勿論、最悪の思い出ではなく、最高の思い出としてです。

無類の“酒好き!?”であるバーテンダーにも忘れられない酒がいくつかあります。それは初めてお客様に提供したカクテルであったり、コンクールで入賞したカクテルであったり、希少なボトルであったり・・・

私にも忘れがたいいろんな“思い出の酒”がありますが、その中でも強烈に記憶に残るものを二つ紹介したいと思います。

ひとつはバーテンダーの世界に入って間もない(今から22年も前の話ですが・・・)、修行時代の店で、オーナーの友人がヨーロッパ旅行でお土産に買ってきたのが1本10数万円もするハンガリーのトカイ産貴腐ワインと最高級トリュフでした。 
トカイの貴腐ワインと言えば、ルイ14世が『王様のワイン、ワインの王様』と称えた甘口デザート白ワインの雄です。幸運にも開栓時に同席させていただき、飲んだことの無い高級貴腐ワインを飲み、テレビでしか見たことの無いトリュフを食することができたのです。それはそれは甘美な思い出なのですが、今思えば、まだまだ酒の味もわからないかけ出しの若造に貴重で高価なワインとトリュフをよく与えたと思います。(余ったトリュフを食べ過ぎて気分が悪くなった思い出でもありますが・・・)

もうひとつはカクテル“マンハッタン”です。
これも20年ほど前、修行をしていたバーでの話ですが。
やっとカクテルを作らせてもらえるようになり、自分なりに勉強し、修行を積んでいた頃、ある中年の男性が1月に1、2度の割合で店に来るようになりました。
彼は最初の頃はモスコミュールやジンリッキー、ジントニックなどのロングカクテルを飲んでいたのですが、ある日『マンハッタン』の注文をしたのです。
私は『待ってました!』とばかりに、未熟な腕を思いっきり振るいマンハッタンを作りました。
彼はショートカクテルを飲むお約束のように三口でそれを飲み干しました。
私は『やった。速攻で飲み干してくれた!美味しかったんだ!』と心の中でガッッツポーズをしたのですが、彼の口から出た言葉は『これはマンハッタンじゃないな!もう少し・・・いやかなり勉強しないとね!』でした。
カクテルに多少の自信を持ちかけていた私にとってはかなりショックな言葉でした。 それからというものの、彼は店に来るたびにマンハッタンを最後に注文し、『まだまだ駄目』と言っては帰っていくのでした。

『彼は何者なんだ。何で私の作るマンハッタンが気に入らないんだ。私のマンハッタンは何が違うんだ!』と私は未熟な腕を省みず腹をたて、何とか彼に『旨い!』と言わせたくて、必死になってマンハッタンを研究し、作りました。

何杯のマンハッタンを作り、何度同じセリフを言われたことでしょうか。
1年ほど過ぎたある日、彼はまた最後にマンハッタンを注文して飲み干したのですが、帰り際にまた同じセリフを言うのかと思いきや、『やっと、マンハッタンらしくなったなぁ。今度、大阪にバーを出すんだがそこのバーテンダーとして来ないか?』でした。 彼は大阪や福岡にバーや飲食店を数店舗経営していたのです。 この上ない誘いだったのですが、なぜか私は断ることに・・・
何で断ったのかって?・・・何で断ったんでしょう? ハハハ、忘れました。

それからというものの、マンハッタンを作る度に、そしてマンハッタンを飲む度に、その当時の自分を思い出し、『まだまだ修行が足りない』と怠慢になりそうな自分に喝を入れるのです。

★マンハッタン
 ライ・ウイスキー      3/4
 スイート・ヴェルモット   1/4
 アンゴスチュラ・ビターズ 1ダッシュ

ステアしてカクテルグラスに注ぎ、マラスキーノチェリーを飾る。
好みで、レモンピールをしぼりかける。

#BAR

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