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【6】シングルモルトマニアックス

  

【6】シングルモルトマニアックス


A
WHISKY DRINKER


「節約安定化原理」についてご紹介しました。

ウイスキーにしても何にしても、食品や嗜好品にあたるものを深く観察しようとするときに、従来の経験則、または含まれる物質が何であるかというアプローチはもちろん大事ではあるのですが、「どうしてウイスキーは美味しいのか」「覚醒するのか」「どういう機序で美味しさは伝達されるのか」まで踏み込んで考えるのならば、脳への一定の理解は不可欠だと思います。

実はこの「目の前にあるライターを取ってください」というテスト、一つ前提となる条件をまだお話していません。事前にこの前提を知っていると、まさしく「節約安定化原理」が働いて、ひとは「自分には関係がない」と考えてしまうからです。このテストの被験者は脳に発作を起こす重度疾患を患っていて、右脳と左脳を繋ぐ「脳梁」を切断していました。今から50年ほど前までは治療を目的として数多くの外科的処置がとられていて、その後事前に予測し得なかった副作用があったり、倫理的観点から現在は殆ど行われなくなっています。この措置の結果、右脳と左脳の情報伝達も切断されていたのです。

でも「右脳と左脳の双方向通信が上手く行われていない」というのは近年「ゆとり教育」の弊害と言われたり、脳がフリーズする現代人などと言われる事柄にも関連して、とかく注目されている現象です。つまり脳梁を外科的に切断していなくても、人は注意を払わなければ同様の思考を取ってしまいがちだということなのです。

「倫理的観点」が大きな社会問題となって動物実験を中心に行われてきた「脳の研究」も、1981年の国際シンポジウムで「核磁気共鳴画像法(MRI)」の実用化が始まってからは加速を見せはじめ、アメリカが600億ドル以上の予算を投じ、脳科学研究の役割に対する社会的認知の向上を目的とした「
Decade of the Brain (
1990~2000年)」を皮切りに、現在も脳科学研究を支援する政策が10年間隔で展開されています。(個別の研究テーマや、各種脳関連データベースを整備する研究事業にも莫大な研究予算が準備され、NIH(アメリカ国立衛生研究所)だけでも日本の脳科学研究予算総額の約20倍の資金が投じられているのです。。。)

少し横道にそれていますが、こうした「脳科学」研究の成果が次々に公開される一方で、「とかく怪しい」書籍やセミナーを主催している、自称ないし元科学者が散見されます。特にスピリチュアル分野というべきかオカルト的な内容のモノには十分ご注意下さい。

一つあげると、「脳は3%~10%しか使っていない、効率的に使う方法を伝授」という内容は、100年も前にアメリカで言われていた話で、大嘘もいいところです。当時はグリア細胞の存在と役割が判明しておらず、そのような盲信をいだいていたのですが、現在ではその詳細が明らかとなってきて、「脳は非常に(良くも悪くも)効率的な装置であり、そのほとんどが有効に使われている」ことが定説となっています。

では節約安定化原理、もう少し具体例を上げてみようと思います。

次の問題に5秒でお答え下さい。

ポテトチップスとガムは合計で110円です。ポテトチップスはガムよりも100円高いです。ガムはいくらですか?

大抵の方は10円と答えます。直感的にそう考えた、節約的安定化原理が働いてそう思ったのです。

正解はポテトチップスが105円で、ガムは5円。

「論理的な思考というのは、相当な注意力と努力が必要」なのです。

ではこの節約的安定化原理というのは「感覚器官」においてはどのように働いているのでしょう。

例えば、ある初めて利用する地方のホテルで、机に座ってパソコンを眺めています。床はフローリングです。モニターの横にはACアダプターが、壁には絵が貼ってあります。脳はその場その場で多くのことを感知しますが、特に気にかけなければ、必要のない情報だとして、これらの光景をすぐに忘れてしまうのです。

しかも厄介なことに、私たち人間は脳がどれだけの情報を忘れてしまっているかについて自覚出来ません。大抵の人はむしろよく覚えていると錯覚してしまうのです。

裁判で、証人への質問を行う弁護士の中でも「脳」の仕組みに詳しいか、経験豊富な人ならば、依頼人に不利な証言をする証人に対して、「その現場の光景」を答えさせ、その記憶の曖昧さを、写真等で立証することで、「不利な証言」そのものの信憑性を裁判官に疑わせるなどの戦術を採ることがあるといいます。

脳は正確さとスピードでいえば、大抵の場合スピードを選びます。そしてその状況を経験による知識(経験則)に基づいて解釈(理解)します。

これを右脳と左脳の役割で分けてみると、空間をありのままに認識するのが右脳、解釈をするのが左脳です。

前置きが長くなってしまいました。

この脳の特性は、ウイスキーはもちろん、あらゆる「目の前」に起こった現実を、感覚したあと、当人が「好ましい」と思うのか、「そうでもない」「嫌だ」と思うのかということに大きく影響を及ぼすと考えられています。

こうした人間の経験則と現実の行動を研究し、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの本年2月の講演、その他「脳の特性」を理解するのにオススメできる動画をご紹介します。

味覚や嗅覚、その他の化学感覚(受容)のしくみ解説ももちろん大事なのですが、目の前の現実を感知することと、理解すること、記憶することのプロセスを知った上でないと、実際には使えない知識でしかないからです。

ダニエル・カーネマン: 経験と記憶の謎 

http://www.ted.com/talks/lang/jpn/daniel_kahneman_the_riddle_of_experience_vs_memory.html

ジェフ・ホーキンスが語る「脳科学がコンピューティングを変える」

http://www.ted.com/talks/lang/eng/jeff_hawkins_on_how_brain_science_will_change_computing.html

ヴィラヤヌル・ラマチャンドランの「心について」

http://www.ted.com/talks/vilayanur_ramachandran_on_your_mind.html

#ウイスキードリンカー

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