【4】シングルモルトマニアックス
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少し専門用語が多くなってきました。
先に答えを言ってしまいましたが、「ウイスキーは覚醒の酒」であることには間違いありません。
では「ワインは覚醒の酒ではないのか?」というとどうでしょう?
そもそも「お酒とは何か?」というと、それはもちろん「アルコールが含まれた」飲み物のことです。
アルコールは炭素(C)と水素(H)だけで出来た炭化水素の水素原子を、ヒドロキシ基(-OH)で置き換えた物質と定義されます。
芳香族の水素原子をヒドロキシ基で置き換えたものはフェノール類と言って、アルコールとは区別されますが、消毒薬だったり、女性ホルモン様の作用を持つもの、いわゆる「環境ホルモン」として有名になった生体にホルモン様の作用を引き起こして、元々生体の持つホルモンに悪影響を及ぼす「内分泌かく乱物質」などが含まれています。
実はウイスキーが飲む人に多種多様な化学感覚を及ぼすのには、含有される「フェノール類」の多種性が関与していると考えられるのです。
フェノール類に分類される物質には、
フェノール | ・消毒薬 |
グアイアコール | ・ウイスキーに含まれる「焙煎したコーヒー豆」「煙」のような匂いの原因物質 |
セロトニン、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン | ・神経伝達物質 |
チモール | ・タイム(ハーブ:イブキジャコウソウなど)に含まれる特有の香気成分 うがい薬 ・タイムは、肉類・スープ・シチューの香りづけに用いられ、フランス料理のブーケガルニ、エルブ・ド・プロヴァンスに欠かせない食材。ケイジャン料理、カリブ料理にも広く用いられる。 ・香辛料「ザアタル」の主成分 |
没食子酸 | ・五倍子(ヌルデの虫こぶ)、没食子(中近東のブナ・カシワの虫こぶ)、マンサク科の植物ハマメリス(Witch-hazel)、茶の葉、樫の樹皮など、多くの植物に含まれる。加水分解性タンニンの基本骨格を成す。 ・アルカリ性水溶液は還元力が強く、還元剤、写真の現像剤に使われる。また、タンニン合成の原料になり、青インクの製造に使われ、没食子酸プロピル、没食子酸イソアミルなどのエステルとして油脂・バターの 酸化防止剤にも使用される。 ・カテキンの一種、エピガロカテキンガラートも没食子酸のエステルである。 |
チロシン | ・アミノ酸の一種。チーズから発見された。 大量に飲用した場合は約2時間後に血中チロシン濃度のピークに達し7時間持続する。神経伝達物質の前駆物質であり、血漿中のノルアドレナリンやドパミンのレベルを増加させる。冷水ストレスにさらしたラットの攻撃性を正常レベルにもどしたり、ヒトではストレス条件下の気分や 認識作用の改善がみられる。 ・成人におけるADHD(注意欠陥多動性障害)では、チロシン摂取により一時的に改善が見られる場合がある。 ・チロシンには毒性がなく、有害事例の報告はない。一日に体重1kgあたり150mgで3ヶ月間で安全とされている。経口摂取の副作用としては吐き気、頭痛、疲労、胸焼け、関節痛など。(これらは成人について。小児、妊婦についての安全性はまだ報告されていない。) |
オイゲノール | ・クローブ(ハーブ)の精油の主成分。 ・ゴキブリがこの香りを嫌うのでゴキブリ除けとしても使用されることがある。またクローブの精油(丁子油)は日本刀のさび止めにも用いられた。 ・生薬としての花蕾を丁子(ちょうじ)または丁香(ちょうこう)ということもあり、芳香健胃剤である。(日本薬局方にも収録されている) ・漢方では女神散、柿蒂湯などに使われる。インドネシアやインドでは丁子油で香りを付けたタバコもある。→ガラム ・インドや中国では紀元前から殺菌・消毒剤に使われていた。 ・シリアでは紀元前1721年内外の陶器の壺の中からクローブが発見されている。 ・古代中国では臣下が皇帝の前に出るときにはクローブを口に含んだという記録がある。 ・ヨーロッパには中国商人が絹などと共にセイロン経由でもたらし、6~7世紀頃には貴族の間で珍重されるようになる。 ・古くは原産地でクローブの価値が把握されておらず、そのため中国商人たちが長く原産地を秘匿したまま交易商品として取り扱っていた。大航海時代になるとコショウ、ナツメグとともにスパイス貿易の中心的な商品となり一般にも出回るようになった。 ・日本にもかなり古く、5~6世紀には紹介されていた。 正倉院の宝物のなかにも当時輸入された丁子がある。 |
ビスフェノールA (BPA) | ・合成樹脂の原料。内分泌攪乱化学物質。 |
クレゾール | ・コールタールやクレオソート油に含まれる。 |
サリチル酸 | ・鎮痛薬、解熱薬、抗炎症薬としての効果を持つ植物ホルモン。アスピリン(アセチルサリチル酸)の前駆体。 |
プロポフォール | ・点滴静脈注射で投与される麻酔剤。 |
エストラジールなどのエストロゲン | ・ステロイドホルモンの一種。一般に卵胞ホルモン、または女性ホルモンとも呼ばれる。 |
上記表のようなものがあります。化学物質というのは一般にその構造骨格が似ていると、人体及ぼす影響も似かよる傾向にあります。
では根本的に飲酒することでアルコールそのものはどのような作用を及ぼすかといいますと、薬学的には「麻酔薬」として捉えるのが一般的です。
脊髄を経て脳に送り込まれてくる感覚刺激は、脳幹部の網様体に刺激を伝えています。続いてこの網様体から上行して視床を経て大脳皮質に伝わります。
知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司っているのが大脳皮質です。
大脳辺縁系と言われる部位は古皮質、原皮質から成っていて内分泌系と自律神経系に影響を与えることで、「本能的行動」「情動」に関与しています。
大脳皮質は、大脳辺縁系をコントロールし、そして脳幹部の網様体は、大脳皮質への中継所、むしろ中央配電盤のような役割を担っています。
飲酒によってアルコールは何をするのかというと、「脳幹部の網様体」の働きを低下させてしまうのです。
中継所が抑えられますので、結果、大脳皮質の働きをも抑制してしまいます。
すると大脳皮質に抑えられていた大脳辺縁系が開放され、一時的に活発化します。このことにより本能的な部分、情動的な部分が活発化するのです。
「抑制の抑制は活発化なのだ」とバカボンのパパも言いそうな状態でありますが、飲酒によって普段は抑えられていた、本性が現れた。というのにはこういう理由があったのです。
では「ウイスキーによる覚醒」が意味するものも、この現象のことなのでしょうか?
どうも違うような気がします。
本能や情動を司る大脳辺縁系の開放というよりは、大脳皮質へと刺激を伝えることによっての「覚醒」を意味しているように思うのです。
#ウイスキードリンカー