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コロンにいかが

 ある時期、私の下宿は飲み屋であり、雀荘であった。鍵は表に置いてあり、誰もが自由に出入り出来る部屋になっていた。クラブを掛け持ちしていた事でもあり、私が帰るとクラブ対抗麻雀大会が開催されていたり、合コン風飲み会が盛り上がっていたりと、原住人が誰であるのかが明確で無くなっていた。
 先輩も同輩も後輩も紳士淑女であり、鍵が外に無いときには彼女が来ているという事を知っており、入ってくることは遠慮してくれた。それでも、電話で鍵を開けるように催促してくる事はあった。そういう時は、えてして手土産が付いてくることが多く、喜んで鍵を開けたものである。

 手土産で一番多かったのは酒類であり、次が食品類であった。特に長期の休みの終盤には、地方地方の銘酒や珍味が届くのである。また、海外旅行のお土産として珍しい酒が持ち込まれる事が多かった。アラックやマールなどを初めて口にしたのも自分の下宿であった。また悪友達もそのことを認識していて、その時期は彼女と二人だけで過ごせる日はほとんど無かった。
リビングの本棚は、知らない間にホームバーとなっていくのである。自分で買ってくる「オールドクロー」と「シャンデリゼの霧」は常備されており、そのほかにもウイスキーだけではなく、ブランデー・テキーラ・ラムなどの有名どころだけではなく、ピンガやグラッパや焼酎なども並んでいた。冷蔵庫も2台あり、大きい方は日本酒とビールが冷えており、冷凍庫にはジンとウオッカが入っていた。安物のバー並みにはそろっていたように思う。
 部屋に入った人は勝手に自分の好きな酒を飲み、無くなったら買ってくるというのが暗黙のルールになっていた。クラブや学部、年齢などはあまり気にせず、先輩も後輩も平等に飲んで食って笑って語っていた。

 他所の女子大との合コンというのが流行っていた時期でもある。メンバーに不足が出た場合に、私にもお声が掛かった。飲み会に誘われて参加しないはずなど無く、喜んで出掛けって行ったものである。資生堂からタクティクスというオーデコロンが新発売になっており、学生達は喜んで使っていた。私は当時からそんなことには無頓着で、旅と口に入れることに興味があり、それ以外に使えるお金を持っていなかった。香りで女性が口説けるなどとは思っていなかったので、手元に無かった。
 ある日、合コンに誘われた。クラブの練習日で体中が汗にまみれていたが、集合時間までに風呂に入る時間はなく、コロンの代わりになりそうなものを探した。目に付いたのが、本棚という名のバーにある酒である。なんとなく「ジャックダニエル」をチョイスして少し体に振りかけて出かけた。ある女性がその香りに気づき、コロンの名前を尋ねてきた。素直に答えると、「そんなコロン知らない。」という返事が返ってきて爆笑した記憶がある。
 
 2次会で「ジャックダニエル」をキープして飲んだ。テネシーウイスキーであり、楓の炭濾過などという詳しい事は知らなかったが、女性達とワイワイ騒ぎながら飲む酒であり、不味かろう訳はない。それ以降、ホームバーの片隅にはコロンの代わりに常備されるようになった。もちろん胃で消費する量の方がおおかったが。

 バカ騒ぎと、甘い香りに乾杯!
 

#ジャックダニエル

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