中井英夫(1992-1993)の代表作は日本推理小説の三大奇書の一角『虚無への供物』ということになっているらしいのだけれど、あの厚い小説はむしろ「例外的な中井英夫の世界」ではないかと思う。他の作品を全部読んだわけではないけれど、それくらい作風が違う。
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芳醇という言葉にふさわしい色と艶の、ゆるぎのない小世界が、切子細工のグラスの中に出現する。メスカリン幻覚というほどでなくとも、やはりこの一杯は、どんな幻想も可能にし、さまざまな言葉や色彩や音楽の断片をほどよく混ぜ合わせて一滴の苦味を添えた神酒の伝統を継いでいるので、杉原のようにただ豪放に飲むだけという男でも、心のどこかでは、ちょっとだけお辞儀をしたいような気持にさせられるのであった。
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息が長く密度の高い文章、技巧を凝らした耽美なニュアンス。加えて幻想的なストーリー立てのものが多く、ハマる人はハマる、カルト的な世界がどこまでも展開されます。(「ちょっとだけお辞儀をしたいような気持」って、いいよね!)
ちなみにここで描写されているのはジョニ赤ですw こーいう世界が好きな方に全力でお勧めしたいのは『とらんぷ譚』かな。スペード「幻想博物館」、クローバー「悪夢の骨牌」、ハート「人外境通信」、 ダイヤ「真珠母の匣」の、それぞれ13編の短篇集に、ジョーカーとして「影の狩人」「幻戯」の2編を加えた絢爛たる悪夢であります。
とはいえ、すばらしい切れ味の短編かつ悪夢・・ということで、悪酔いする人も多数出る予感。(^^; これで三島由紀夫ほど自意識過剰だと「伝説」にもなったのでしょうが、彼は寺山修司を見出し、三島本人や澁澤龍彦とも親交のあった根っからの粋人。晩年は不幸が重なって貧窮を極めたあげくの病死。・・別名&自称「黒鳥館主人」、「流薔園園丁」、「月蝕領領主」。ピピっと来た方は、ぜひ。(^_^)