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酔郷譚

倉橋由美子の遺作。というより、「サントリー・クォータリー」に初出の、珠玉の短編連作、という方が話は早い。タイトルからして、その雰囲気は伝わりますよね。(^^)

カクテルが好きな方なら、ぜひ!お読みいただきたい1冊。「九鬼さん」というバーテンダーのつくるあまりスタンダードでないカクテル(遅桜、赤い月、ブラック・レイン・・)の酔いに誘われて、主人公「慧くん」が夢と現のあわいを冒険する、摩訶不思議な物語が7編収録されています。

といって、文章は至って平易。

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「意味深長な答だ」
「慧君だって私にいわせれば愛人ですよ」
 舞さんは澄ました顔でそう言うと、さらに説明を加えた。
「普通は友だちというかもしれないけど、私には友だちというものはいない。愛人と、あとは赤の他人」

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機知に富んだやりとりを、うっかりするすると読み進むうちに、「ここはどこ?」「私は誰??」となってしまいます。妖しいカクテルの度数、かなり高いです。w

個人的にはさほど熱心な倉橋読者ではないのですが、10代の頃読んだ『蠍たち』『悪い夏』とか、忘れられません。「赤の他人」の反対語が「愛人」であるような、独特の官能的な世界観それ自体がとてもファンタジックです。

官能的。そう、本書のキーワードはそれかもしれません。「酔い」と「エロス」の両方を意味する、いかがわしいようで結構お固い日本語です。ある意味、「ポルノNo Thank You!」と叫んでいるようなところも感じます。エロの真髄に酔いたい方も、ぜひ。(^_^)

 

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