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名乗る程の者ではございません

 当店には平日のある曜日にいらして頂けるお客様がいる。以前の記事でも少し書いたが、そのお客様は僕の現住所がお勤め先で僕の実家がお住まいと言うとても偶然の縁がある方で、ウスケバをご覧になられて初めて当店にお越し頂いてからその曜日は半ドンだとおっしゃっておられてずっと来て頂いている。

 いつも早い時間帯に来て頂いてこの前は着替えが出来ていなくてストリップショー(笑)をしてしまっても気長に待っていてくれると言う寛大なお方である。とても謙虚なお方で「モルトの事は全然まだ素人やから」とおっしゃる。しかしお話をお伺いしていくと・・・僕よりはるかに詳しい。少なくとも僕よりは3倍以上詳しい・・(笑)いつもお話をさせて頂く中でいろんな事を教えてくれる。いろんなボトラーズの事、昔のボトルの事、お勧めするのにはどれが良いか、銘柄ごとの味わいの違いetc先日もあるビギナーの女性のお客様からお勧めを聞かれて悩んでいた時、僕が相談するとチョイスしてくれた。するとそのビギナーの女性のお客様は美味しいと喜んでおられた!僕は心中「あのぉ~、カウンターの中と外交代しませんか?」と思ってしまいました・・・(笑)

 そのお客様と色々な話をする中で、好きなモルト、店で仕入れたいモルトの話になった事がある。僕はアードベック17年とロングモーン15年が欲しいと思っていた。その話をすると「今は市場から消えてしまって、たまにネットで出てたとしてもすぐに完売やからなかなか手に入らへんねんなぁ。」とおっしゃっていました。「そうやなぁ・・・やっぱり無理っぽいなぁ」と考えていた。これらの人気の商品は引くて手あまたの人気ぶりで値段も高騰していて容易には手に入らない。無理に仕入れても価格に反映させなきゃならないし、それならもう無理して仕入れる必要もないと考え直していた。

 先日そのお客様がご来店になられた。何やら小脇に紙袋を抱えていらっしゃる。ガサゴソと中を探って取り出し出てきた物は・・・(ドラえもん風に(笑)「アードベック17年」!!「ロングモーン15年」!!おぉ~!すげぇドラえもんかと思った(笑)う~ん。久しぶりにお目に掛かるアードベック17年と雑誌では見掛けた事があったが実は現物を見るのは初めてのロングモーン15年。開店して間もない夕刻のバーカウンターに垂涎のボトルが並んでいる。しかも両方とも未開封の新品である。僕はボトルが欲しいと言うよりも飲みたいと思ってただ指をくわえて眺めていた。するとそのお客様はおもむろに「これなんぼやったら買う?」おぉ~キタ~~ッッ!!もしかしてお譲り頂けるのですか?おっしゃぁ急遽落札タイム突入(笑)

 真剣な面持ちになった僕は悩みに悩んで今までネットで調べた価格とプレミア性、仕入れや保管していた手間などを加味した上、店のコンセプトとお客様のご提供額を考えて見積もった金額を提示した。心中「どうだ!」と勢いづく。するとそのお客様はしばしの沈黙。「やっぱりこんな額じゃダメですね・・・」としょぼんとなったその時「これやったらちょっと高いなぁ」と一言。えぇ!ほんならもうちょっと安くお譲り頂けるのですか?と思ったその瞬間「意地悪言うてごめん。遅くなったけどこれ開店祝い」と一言。予期せぬ出来事に僕は「・・・・・」少しの間止まったその瞬間「えぇ~~!!そんなんほんまにええんですかぁ!?」とちょっと大きな声を出してしまった(笑)寛大な心優しきその方は初めから僕にそれらのボトルを売る気はなかったのだろう。初めから開店祝いとして持って来てくれたのだ。いい人だ。うぅぅぅ・・・(感動)なんて僕は幸せ者なのだろう・・・。「値段は好きに決めたらええから」とのお言葉。ありがたい!これでまたお客様の笑顔を増やす事が出来る!
 
 そのお客様は「家にストックしてあったから、まだ飲んでへんかってん」「ありがたいけど・・・申し訳ない・・・本当に頂いてしまってよろしいのでしょうか?・・・」と思っていた。それならばもちろん今封を切りましょう。二人だけのテイスティング会が始まった。開栓したばかりのボトルから流れるモルトはとてもいい音がする。スポッ!トクトクトクトク・・・・。グラスに注ぐといい香りが漂ってきた。チェイサーを二つ用意してテイスティング開始。必要以上の言葉はいらない。ただその旨さを存分に味わうだけ。

アードベック17年はTENとは違ったフレーバーで17年の歳月を経た熟成感があり、アイラ特有のフレーバーの中にレモンキャンディのようなフルーティさを見つける事が出来る。「うま~い!!」と叫びたくなった(笑)若いアイラの荒々しさも良いとは思うが、時を経た大人のアイラはまた格別である。

ロングモーン15年を好きな人は多いと思う。僕も穏やかな甘いモルトは大好きだ。程よい甘さで何かレーズンやオレンジのようなフルーティさがある。アルコールも45%と若干高めになっている為に良い風味がある。これまた「うま~~い!!」と叫びたくなった(笑)
  
 最高のテイスティングを終えた後そのお客様はその他色々お飲みになられてご帰宅の時間となった。帰り際に「まだお名前お伺いしてなかったですよね。すいません今更ながらですが、お名前頂戴してもよろしいでしょうか?」と僕は尋ねた。するとそのお客様は「名乗る程の者ではございません。」と一言。うわぁこのセリフ何かどこかで聞いた事があるぞTVドラマか?デジャブか?と思っていた。しつこくなってはいけないのでそれからはお尋ねしなかったが「名無しさんでいいよ」と微笑んでいらした。これからそう呼ぶ訳には行かないが教えて頂けるまで聞かないでおこう。本当にいろんな方からお祝いのボトルを頂戴した。僕はこの上ない幸せ者である。皆様からは本当にさりげなくご厚意を頂戴している。このご恩はどうしてお返しすればよいのだろう?そのお気持ちを素直にありがたく受け止めてこれからも頑張っていこうと改めて思った。

市場から姿を消して久しいこれらの垂涎のボトル「アードベック17年」と「ロングモーン15年」はカウンターの上ではなくバックバーに陳列する事に決めました。’モル大’様のお言葉をお借り致しまして

これらのボトルが皆様の笑顔に変わってくれたらいいなぁと思います。  
 

#新入荷ボトル

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