さてさて,前回のウイスキーの知識に関連して,資格に関する私見も書いておこうと思います。
有名なところだと,スコッチ文化研究所の認定する、ウイスキーコニサー資格認定試験というのがあります。(その他に今はウイスキー検定というのもやっているようで,多くの方が受験されたようです。)
スコットランドなどウイスキー生産地の地理、歴史、そして蒸留所とウイスキー製造に関する知識などを問われる試験です。
コニサー試験のうち,自分はウイスキープロフェッショナルという資格を、資格が発足した2007年の試験で取得しました。
その前段階のウイスキーエキスパートという試験は筆記試験のみで、プロフェッショナルにはテイスティングの試験もあります。
試験や認定にあたってそれなりの料金は掛かりますが、闇雲に合格者を量産して更新料を延々ととり続けるような資格とは異なり結構良心的な資格だと思っています。
コニサー資格認定試験のテキストです。
今は改訂・増量されて2冊になっているようです。
とはいえ、この資格試験に関しては賛否両論あると思います。
私も有資格者ということもあり、いろいろ聞かれることがあり、ここらで自分の思うところを書かせていただきます。
前回書いたように,私はある程度以上の知識があった方がより深くウイスキーを楽しめると思っています。
ではプロの方ならともかく,一般の愛好家にとっても知識の延長で資格も取ったほうが良いのでしょうか。
これはしばしば聞かれますが、その人の状況にもよると思います。
すでにある程度以上の知識があり,ウイスキーの世界にどっぷりとつかっており、自分のウイスキーライフに満足している人、そんな人にとってはこの資格を取って特別良いことはないかもしれません。
正しい知識を体系的に整理し直す機会にはなるかもしれませんが,わざわざ受験料・認定料を払ってまで資格を取ることにメリットがあるかどうかは微妙なところです。
では,当時の私のように,ウイスキーの世界に浸かり始めた人達にとってはどうでしょうか。
ここで私というドリンカーの一例をご紹介します。
私にとっては,いろんな書籍を読んだもののバラバラだった知識を整理し,体系的に理解することができる良い機会になりました。
このコニサー試験の教材は,結構難しいところもあるのですが,とても良くできていて当時の自分の痒かったところに丁度手が届く内容でした。
あいまいな部分が少なく正しい知識を得られたというのも大きかったです。
それなりの割合を占めるスコットランドの歴史などについても、スコッチウイスキーとの関連もありますし、関連が無い部分に関しても普通に興味深かったです。
生産地の風土や歴史への愛着がより増すことは、人が作るウイスキーというものへの愛情にもつながりました。
これがなければ,新婚旅行でスコットランドに行くなんてことは無かったと思います。(笑)
では知識だけでなく資格までとる意味はあったかというと・・・,ありました。
自分にとっては、この資格がパスポートとなりました。
若造にとって,底が見えないくらい深遠でマニアックなウイスキーの世界に入っていくのには,勇気がいりました。
そんな時に「自分には少なくとも最低限の知識とテイスティングスキルがある」という自信は、そこに踏み込むためのパスポートになったのです。
そんなパスポートなど不要という人は別ですが、どのくらいの知識とテイスティングスキルがあれば普通なのかという尺度が無い世界において、ある程度の尺度になりうるこの資格は私にとって有意義でした。
高い敷居を感じていたモルトバーにも通えるようになりましたし,周りのマニアの人たちの会話の意味も最初からある程度理解できました。
そこで物怖じせず経験を多く積むことで,加速度的に成長できたと思います。
そして,これは私だけでないと思いますが,試験合格というわかりやすい目標があった方が知識を付けるモチベーションが保てるのではないでしょうか。
また,資格取得をきっかけに,それを生かしてウイスキーのイベントを主催するなど裾野を広げる活動をされている方もいらっしゃいます。
そんなわけで,ウイスキーの世界に浸かりはじめた人にとっても,私のように資格が有意義になる場合はあると思います。
しかし,そんな当時の私のような人達が資格を取ったからといって,達成感はあるでしょうがウイスキー愛好家として一人前であるかといえば、答えは否だと思います。
私がプロフェッショナルの資格を取得したのは2007年のことで,ウイスキーを好きになって5年程度の頃でしたが,それまではまだ若かったこともありBARは敷居が高く,教えてくれる人もおらず,自分で買って飲める範囲には限りがあり,絶対的に経験が足りませんでした。
それでも勉強してある程度飲んでいれば資格は取れてしまいます。
しかし,香味に関する見識が資格取得に占める割合はごく少なく,資格取得後も知識が増えただけで,特にヴィンテージ,熟成年数,樽,そしてボトラーズなどによる香味の特徴に関する認識というのは薄っぺらでした。
BARなどに行くようになり広い世界に出てみると,当時の私より、そして今の私よりもはるかに知識も豊富でテイスターとしても素晴らしい方々がたくさんいらっしゃいました。
自分が本当の意味でモルト愛好家として成長したのは,資格のための勉強をした期間ではなく,間違いなくその後です。
私のような状況で試験を受けようと思っている人たちに言いたいことは,「資格取得で決して満足したり過信したりしてはいけない。あくまでウイスキー愛好家としての第2のスタートラインに立っただけだ」ということです。
素晴らしいウイスキーライフの扉がひとつ開いたに過ぎないのです。
ウイスキーは,なんとなく飲んでも美味しいですし素敵な時間を過ごせますが,やはり知識をベースにして香味について考えたり現地に思いを馳せたりしながら飲めることに私は魅力を感じ,陶酔します。
それを楽しく実感し続けるためには,しつこいですが知識や経験を増やし,それをベースに考えながら飲み続けるしか無いのだと思います。
また,考えながら飲むほどに理解が深まりますが,同時にわからないことも増えていき,底の見えない深遠さを感じます。
そしてそれが次々と新しい興味を生み出し,飽きることがありません。
結局,どんなに考えてどんなに飲んでも完全な理解には至らないことがわかっていても,続けていくと少しずつそこに近づいている実感があり,それがまた次の素敵な1杯に繋がります。
やはりウイスキーは一生付き合っていける素晴らしい友であり恋人だと思います。
なお,今回の記事は,以前に「モルト初心者にオススメするウイスキー」という記事を書いた際に,そこから派生して書いたものでした。
そのまま温めていたのですが,今回改めてこれをブラッシュアップして公表するに当たって,個人的見解の要素が強いと思ったこともあり,何人かのウイスキー愛好家の方にご意見をいただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。
#考えたこと #モルト初心者の方へ