【ウイスキーの化学 第4回】
では、そろそろウイスキーに関連深い話をして行きたいと思います。
今回は、飲酒と感情の関係を再び遺伝子や神経伝達物質のはたらきによって簡潔に説明します。
【アルコールに強いか弱いかはFyn遺伝子によって決まる?】
従来アルコールに強いか弱いかは、肝臓の酵素の有無にばかり注目が集まっていました。
しかしながら最近の研究では、東京大学名誉教授の二木博士らによって「Fyn遺伝子」と感情の関係が調べられ、
①Fyn遺伝子が機能しないマウスは電気ショックを恐れるようになった(怖がりになった)
②Fyn遺伝子が機能しないマウスと正常なマウスにアルコールを与えると、前者のほうがアルコールに弱かった
Fyn遺伝子は人間にもあるので、この遺伝子の有無によってアルコールに強いか弱いかが左右されるのではないかと考えられています。そうすると訓練によって強くなるかどうかというよりは、生まれながらある程度決まっているといえるわけです。
【アルコール摂取における神経伝達】
従来アルコールは脳内に広く影響を及ぼし、細胞膜に作用して神経伝達物質の受容体が機能しにくくなると考えられてきましたが、これも近年の研究によってより明確になり、飲酒程度のアルコール濃度では、アルコールが細胞膜表面にあるカリウムイオンの通り道となるたんぱく質に作用することが判明しました。
このことから、カリウムイオンがニューロンの外に出て行き、そのニューロンから次のニューロンへの情報伝達が抑制されてしまうと考えられます。
ドーパミンは人間にとって快い情動を生み出すことがわかっていますが、平常時はむやみやたらとドーパミンを放出しないようにGABAニューロンによって抑制をかけています。それが飲酒によってアルコールが細胞膜表面にあるカリウムイオンの通り道となるたんぱく質に作用すると、抑制をかける命令伝達が邪魔をされ、ドーパミンの放出に抑制が効かなくなり、ドーパミン量は増加、当初は快い情動につながりますが、徐々に量が過ぎると言動その他にも歯止めが効かなくなってしまいます。
もちろんその体験は脳内に記憶され、アルコールの摂取頻度と濃度によっては無意識にもアルコールを欲しがってしまう中毒症状にもつながりかねません。
タバコの例と同じことですが、嗜好品というものはドーパミンを出す方法であり、最終的に一番大きく影響を及ぼすのは、(=快い情動を引き起こすドーパミンを放出するのは)タバコではニコチン、お酒ではアルコールであるという事実に変わりはありません。ただそれが、紙巻なのかシガーなのかメンソールで摂取するのかと同じように、お酒ではビールなのか日本酒なのかウイスキーなのかどこの蒸留所なのか、どのボトルなのかというだけの問題ではあるのです。
もちろん当サイトでは、それを重々理解したうえで、とことんその内容を追求し、われわれに幸せを運ぶ美味いウイスキーとはどんなものなのか、真面目に分析して行こうというわけです。
#ウイスキーの化学