先日、お客様とお話していたことでこんな話になりました。
「マスターはなぜ、ウィスキーが好きなの?」
この質問、たまにされると昔の修行時代を思いだされます。
そうですね、たまには僕がお酒もほとんど飲めないのになぜウィスキー(酒全体)という魅力に取り付かれたことを書き込みたいと思います。
当時、今から約14年前。
バー・テンダーというよりも、とあるレストランでまだ見習いのホール係をしていた僕は、ある時ウェイティングバーを手伝うことをきっかけに、この道に入ることになりました。
本当にお酒がまったく飲めない僕がこんな仕事が勤まるのかどうか?そんな感じで始まったのです。
カクテルの練習も毎日深夜まで続き、それは大変に楽しくもあり苦しい時代。
その当時からお世話になっている私の師匠が大のウィスキー好きで、特に当時はBOWMOREが大好きでして毎晩、僕の練習に付き合いながら仕事終わりの1杯をやっておりました。
そんな中、僕もこのシングルモルトに興味を持ち始め師匠から少しだけこのBOWMOREをいただくことがありました。
最初からBOWMOREとは・・・。
今思えば相当、荒行に近いものがありますがやはり師匠の好きなものは「知らないと!」という気持ちで飲み続けました。
最初はまず唇が痛くなり、舌も痛く、体も熱くなり、酔い加減がビール以上に大変で体中がゆでだこ状態・・・。
そんなことを繰り返していくと、人間て不思議ですよね?
慣れてくると、この美味しさがだんだんとわかってくるんです。
そして、その瞬間から僕のウィスキーに対する思いが徐々に変わっていったんです。
それから、愛知の方はご存知の方も多いかと思いますが、師匠の友達でもある「バー ロン・ケーナ」へ連れて行ってもらいました。その時、確実にウィスキーフリークになるきっかけができたのです。
そう忘れもしない、隣で師匠が飲んでいたシグナトリーヴィンテージのポートエレンを少しだけいただいた瞬間。
その当時でもこのポートエレンは貴重なものであり、人気はかなりあったのですがすでに蒸留所は閉鎖。
僕は、「サイレントモルト」という物をこのとき初めて体験することが出来たのです。
こんなに美味しいものが、なぜ閉鎖に追い込まれ、すでに作られていないのでしょう?そんな風に思い、土屋先生が当時出された「モルト大全 初版」を片手にモルト人生が始まったのでした。
知れば知るほどに奥が深い、シングルモルトやすべてのお酒の世界。
樽に抱かれ、時間が作り出す芳醇な香りと甘美な味。
琥珀色した、その液体は私が生きてきた時間よりも長い時間を知っている…。
そんな風に思うと、ウィスキーに対しての思いが変わってくるのです。
10年、20年、30年・・・。
人間にたとえたら、どんなに長く、どんなに貴重な時間なのでしょうか?
安酒だと思われている10年クラスのお酒でも、僕たちが生きてきた10年に当てはめるとどうですか?
大切な時間なのです。
そして、それを見守り続けてきた職人たちのことを思えば、礼儀をもって接しなければならないのです。
お酒も人間も出会いなのです。
思い出してみませんか? あなたの10年間をウィスキーと共に・・・。
#愛してやまないモルトたち