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伝統ある職人の姿

昨日の仕事中、とある物を切っていたらこれまで10年以上愛用してきた庖丁が「ピキ!」・・・・・!!!

かけた・・・・face07
ショックだ。今まで本当に愛用してきたので、この事件は本当に辛い。
自分がまだ料理人の駆け出しの頃、初めての給料で買った思い出深い庖丁。
やはり特別な思いがあります。もちろん、もう何度も研いでいますからだいぶ小さくはなってきましたが。
ですがこの削れた分だけ、腕が上達すると昔、シェフに言われたことがあり大切扱ってきました。

自分で直そうかとも思いましたが、ちょっと修復にかなりの時間が掛かりそうだったので、10年以上も使ってきましたので、ここいらでメンテナンスという意味もこめまして今日、仕事が始まる前に市内にある刃物屋さんの『菊秀』さんにお邪魔してまいりました。

こちらのお店は、超がつくぐらい老舗のお店らしく出迎えてくれたのは老夫婦の二人。

旦那さんは、もう70は超えていらっしゃるだろうという方で、大人しげですが優しい目をされていました。奥様のとても素敵な方で、すごく気さくにお声をかけていただきました。

庖丁ケースからそのかけて物をお見せして一言。
「どういう風に削ろうか?ここをこうすると使いやすい状態に持ってくることが出来るし長持ちするよ」
え!?そういうやり方があるんですか?という感じに僕の持ってる常識にはないようなお答えで、その理由も事細かに教えてくれました。

そして、修理には日数が掛かるということでしたのでさてどうしたものか?やはり今日の仕事に必要だしなぁ。
そうだな~もう一本新しいのを久しぶりに買おう!どうせよく使うし色々な意味で自分にご褒美だ!

ということで、同じ形の牛刀を奥様を交えてご相談。

今まで使っていたのは、「MISONO』というメーカーの庖丁で、質はかなりいいものでした。

菊秀さんにもこの「ミソノ」の庖丁はかなりありました。
海外向けの庖丁も多く、おくには氷彫刻専用の彫刻刀や美容師さんのつかうハサミも多数展示されていて、このお店の専門性がわかります。

そして、奥様と相談した結果「やはり今まで使ってきていたミソノと同じ形のものが一番手にしっくりくると思いますよ」とアドバイスを頂き、実際他の庖丁も手にしてみましたが、確かに何か違和感がある。

何かとはいえないが、やはり違うのです。そして奥様が、『みその』の工場に伺ったときのことを事細かにお話していただき、その職人の魂が入っている庖丁の素晴らしさを教えていただきました。

ということで、修理に出した庖丁とまったく同じ物を買うことにface02

そして仕上げをどうするかという旦那さんからの申し出に、『仕上げって?』となりました。

確かに最初は錆止めの油がついているので、一度研ぐのですが仕上げとは一体?

とだんなさんにお伺いを立てたら、「今までの庖丁は片刃にわざとしているよね?」
!!よくお分かりになりましたね。というか、ほとんど見てもいないのに・・・。
なぜ!?やはりこの方すごい。

僕らは絶対、この角度やらあの角度やらであちこちから見て判断するのに一瞬で見極めることが出来るなんて!

最近は、よく両刃の物をわざと片刃にすることで材料がくっつきにくくする方もいらっしゃるのですが、自分のは、正直そうなっただけなんですけどね・・・お恥ずかしいです。

結局、両刃にしてはもらいましたが前の修理に出した物は、片刃に仕上げていただくことに致しました。

庖丁を研いでいる旦那様の姿は、まさに食に携わる人間にとって医者のような存在。

刃物のことをよく知っているからこそ、その職人のつかいたいように仕上げてくれる。

また自分達も夫婦で仕事をしているのでこの老夫婦の姿は、本当に勉強になりました。

頑固そうな旦那様とそれを理解してくれている奥様の姿はとても理想的で、長年のなせる業なんだなぁと思いました。

そして、最後に領収書を書いてくださったときのことです。
奥様が『但し書きは包丁代でいいです?』ときかれ、そのようにとお願いすると
『私はねぇ、昔のほうの漢字を使うけどこの字わかる?』
『?』
『昔の漢字はね『庖丁』って書くんですよ。こっちが本当なんですよ。それにこれじゃないと庖丁じゃぁ無いんですよ。だいいち(包丁)じゃ味気ないしね』

まったくもって恐れ入ります。

#バーテンダーの独り言

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