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出世

 トレードマークの雪駄の鼻緒がついに切れる寸前になった。
 といってもビニール雪駄で、毎日そればかり履いているのだから、2年間お疲れ様という気持ちである。
 さすがに鼻緒のすげ替えは不可能なので、ゴミ箱に行って貰うしかない。

 そこで焦るのである。
 裸足で歩かなくてはならなくなるではないか。
 あせって十三老舗の草履屋へ。

 「鼻緒が切れそうなんやけど、直らんわな?」
 「それ、うちで買うてもろたビニール雪駄でんな。それはムリですわ」
 「やっぱり、あかんか。しゃーない今度は鼻緒の替えらそうなんにするわ。まだ表は大丈夫やもんな」
 ニコニコと70過ぎのオバーチャンが、次から次へ出してくる出してくる。最低でも¥6000。
 「これなんかお洒落でよろしで」¥12800。
 ふと見ると、オバーチャンの頭越しに¥4100の札が。

 なんぼ愛想振りまいてもろても、70過ぎの女性。
 自分の財布の中身の方が可愛いに決まってる。
 でも、裏が革のホンマモンの雪駄に出世したのだ。
 

#徒然なるままに

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