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ボクと空と麦畑

 

  今回の作品は、英国アカデミー賞最優秀新人賞のほか多くの映画賞を受賞し、これからの活躍が期待されているスコットランド出身の女流監督、リン・ラムジーのデビュー作の「ボクと空と麦畑」です。

  邦題からは元気なヒューマンドラマをイメージされるかもしれませんが、気の滅入る物語です。

  スコットランドの寂れた工業都市グラスゴー。清掃員のストでゴミが溢れ返り、ネズミが大量に発生するこの町で、心に大きな秘密を持った12歳の少年ジェームズは、両親と姉、妹と小さなアパートに暮らしていた。酒飲みの父親、友人の死、そして2歳年上の少女との出会い。小さな心に次第に広がる大きな闇-。そんなある日、姉を追って乗ったバスの終着地で、広大な麦畑と建設中の家を偶然に見つける。決して拭えない罪悪感と、孤独感に行き場をなくしたジェームズは、あの日見た黄金色に輝く麦畑と白い家に一途な夢を抱くのだが、残酷な現実は容赦なく彼の前に立ちはだかるのだった…。

DVDジャケット解説より

  冒頭、主人公の少年はだれにも打ち明けられない秘密を抱えてしまいます。

  自責の念にかられた少年は、貧しく望みのない日々を送るなかで次第に精神のバランスを崩していきます。

  そんな彼が心を許せるのは、いじめられっこの少年と、近所の不良グループの慰みものになっている年上の少女の二人だけでした。

  そして、あてのないまま乗ったバスの終点のさきに拡がっていた麦畑と建設中の住宅地に、幸せな生活を夢見ます。

  しかし、ローティーンの未熟な性への関心がリアルなものに変わり、さらに、麦畑の住宅が完成して、結局、他人のものでしかないと悟ったとき、少年はある行動に出るのでした。

  観客は、プロローグで明るい展開は期待できないことを暗示させられ、耐えられるぎりぎりの時間であろう90分のあいだ、息を潜め、目を凝らすよう強いられます。

  登場人物の顔のクローズアップは、みな苦しみと空しさを湛えた表情ばかりです。だからこそ、残酷な帰結であったとしても、ラストの少年の笑顔に救われるのでしょう。

  日本でも知られているトミー・フラナガンの好演さえ霞ませる、主人公のジェームズ役のウィリアム・イーディーの演技は素晴らしいの一言に尽きます。

  リン・ラムジーは本作で英国映画界の巨匠、ケン・ローチと比較されました。たしかに、ワーキングクラスの人びとに向けた目線と、透明感の漂うドキュメンタリータッチの作風は彼を彷彿とさせます。ただ、グラスゴーの街並みと麦畑のコントラストの鮮やかな対比や、風船の幻想的なシーンなどに、ラース・フォン・トリアーの「奇跡の海」の影響も窺えました。手法はトリアーが提唱しているドグマ95的でもあり、翌年に制作された「ダンサー・イン・ザ・ダーク」との近似性も感じます。

  音楽はぼくの好きなレイチェル・ポートマンで、暗澹とした画面に幾ばくかの安らぎを与えています。彼女の代表作の「サイダーハウス・ルール」のテーマ曲をサイドバーにリンクしておきます。

  次回も、リン・ラムジーの監督作の「モーヴァン」を紹介します。

#スコットランド映画

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