ちょうど一年前の年度末の夕方、僕は病室の片隅で立ち尽くしていた・・・涙も声も出ずに・・・ただ途方に暮れていた。
あれから一年の月日が流れた。
その日は文房具を買うのにちょっと時間を費やした・・・ほんの5分程前の話だったらしい・・・僕は最期の時に立ち会えなかった・・・若旦那は永遠の眠りについた・・・一番愛した両親に看取られながら。
病室に入ると大将が窓の外の遠くの景色をずっと眺めていた・・・おかんは目を真っ赤にしてうつむいたまま泣いていた・・・ベッドの上にはもう話す事の無い若旦那が眠っていた。
早く元気になってまた猫バーでビールとモルトをたらふく飲むって僕と約束してた・・・ずっと信じていたかった・・・でも僕はうなずいてはいたものの・・・日に日に痩せこけていく姿を見るのがとても辛かった。
若旦那が病院のテラスで、病室で僕に残した幾つかの言葉・・・野菜はしっかり食え・・・バイクは安全運転しろ・・・イライラするな・・・ちょっとやそっとの事でうろたえへんようにどっしり構えとけ。
守れていない事ばかりだなぁと反省を繰り返しながらも毎日を過ごした。
気がつくと物凄い早さで月日が流れていった・・・信じられないようなスピードで・・・あれからもう一年経ったのか。
去年の暮れ、生駒寿司の造作は幾つもの思い出と共に撤去された・・・二転三転・・・紆余曲折を経て・・・古めかしい木造建築の2階で猫バーは営業を続けている・・・そこで僕は仕事をしている・・・生意気だけどとても優しいスタッフと素敵なお客様に囲まれながら。
あれから一年・・・今日は若旦那と一緒にビールを飲む事にしよう。
#日々の出来事