今日は睡眠をバッチリと取りすぎた参段です。これから用事があるので、昭和町に来ています。
と言う事でお話の続きを・・・起死回生のクロスカウンターを放ったインパクトの瞬間、目の前が真っ白になって相手の姿が見えなくなったと思っていると・・・僕はトレーナーに抱きかかえられて天井のスポットライトを仰いでいました・・・おぼろげな意識の中、目に映るレフェリーは僕の上で大きく腕を左右に交差していました・・・。
完璧なタイミングで相手の顎を狙って放った起死回生のクロスカウンターは、相手の顎を打ち抜く事無く、逆に強烈なカウンターブローとなって僕の顎を打ち抜いていました。
インパクトの瞬間、僕は意識を失っていたのでしょう・・・KO負けを宣告された僕は足元がおぼつかず、トレーナーに抱きかかえられてリングを降りていました。
その後、控え室に戻ってトレーナーに試合の事を色々と聞いていました「僕はどうなったんですか?」するとトレーナーは押し黙ったままでした・・・。試合に負けてしまった・・・ノックアウト負けを喫してしまった・・・それを素直に認められない・・・いや認めたくない僕は思いつくまま、矢継ぎ早に次々と言葉を発していました・・・「1Rはいい試合運びやったでしょう?」「アッパーとフックもバシバシ決まっとったでしょう?」「2Rが始まっても、いいカウンターが決まっとったでしょう?」「でも途中からボディブローでガードが下がってしまって・・・」「ダウンした時も、効いてへんかったでしょう?・・・」「カウンターのタイミングが・・・」「・・・・・。」
初めは冷静に試合を分析して話しているはずだったのに、途中から言い訳ばかりになってしまって、話を始めて口ごもると、涙で何も見えなくなって、言葉も出てこなくなっていました・・・。
帰りのバスの時刻が迫り、控え室から出て行く時、トレーナーは僕に「今日はいい試合やったな。お前の方が絶対に技術力は上やし強い。また今度、再戦して雪辱しような。」と言いました。なぐさめにも似たその言葉に僕は力なくうなずいて一緒にバスに乗り込みました。
その後もリングに上がりましたが、結局、その雪辱の機会は訪れませんでした・・・この試合からおよそ1年後、僕はグローブを壁に吊るして引退届けを書きました。
憧れていた世界チャンピオンになりたかった・・・でも現実は厳しかった・・・1つの負けはプロボクサーとしての商品価値を大きく下げる・・・ましてや無名の新人ボクサー・・・それまではスポンサーについてチケットを買ってくれていた人も、周りで応援してくれていた人も皆、僕の周りから離れていきました・・・現役を続ける事は出来ただろう・・・でも僕にはそんな根性すらなかったのかも知れません・・・。
ボクサーの姿はリングの上には無いと言う人もいる・・・朝のロードワークから始まる一日の生活、仕事に行ってそれが終わるとジムワーク、革の匂いと汗の匂いが入り混じった独特の雰囲気があるボクシングジムで汗を流しながらひたすらサンドバッグを叩き続ける孤独な姿。それが本来のボクサーの姿なんだと・・・。
まだその8へ続きます・・・。
#日々の出来事