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楢橋朝子「ジュメイラビーチ、ドバイ」(2009年)

http://sankei.jp.msn.com/culture/arts/091031/art0910310756001-n1.htm

■浮遊感と緊張感が同居

 写真にメッセージはない。どう受け取ってもらってもいい。エモーショナルなことは言えるかもしれないけれど、言葉にできるようなことはない。そう続けてから、ふと気づいたように楢橋朝子(50)は、小さく笑った。「というのでは、困りますよね」

 ええ、インタビュアーとしては、とても。だけど写真家ってのは言葉にできないものを撮ろうとする人たちで、むしろ言語化できないものこそ面白かったりするから、仕方ない。

 掲載作は、最近撮り続けているシリーズの一作。浮遊感と緊張感が同居する。面白いけど、どこか不安。そんな現代を象徴している…ようだ。もちろん作家は語らないけど。

 水中カメラを持ち歩き、各地の波打ち際で撮影する。地上と水中が半分ずつの構図は、とくに狙ったわけではなかったという。最初は神奈川・三浦半島の城ケ島。「24時間撮ろうと決めていたから、海にもカメラを持っていっただけで…」

 そのまま1年ほど過ぎて、企画展に出す写真をセレクトしていたら、半水面の1枚を面白く感じた。

自作からそんな再発見があるのは、その撮影スタイルのせいだ。「量のない質はない」という師匠・森山大道の言葉通り、毎日フィルム10本撮っていた。いまは「撮らなくてもいいや、という気分の日がある」。とはいえ、撮ると決めたら1日7本だとか。

 「うまい写真とか良い写真に興味がない。欠落感のあるものとか、逆に過剰感のあるものが面白い」。言葉は少ないのに、とても多くのことを教えてもらえた気がする。(篠原知存)

                   ◇

 ■楢橋朝子写真展「近づいては遠ざかる」

 20年前の初個展「春は曙」で発表した写真と、海岸線を写した「half awake and half asleep」シリーズを、安藤忠雄氏設計の空間にインスタレーション的に展示している。12月27日まで、東京・仙川の東京アートミュージアム。火水休。一般300円。

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