時系列的にエッセイを書くことをあきらめ、自分の中で印象深いものから順に書き飛ばしていくことにした。でなきゃ長編は難しいのだ。
(もし期待されていた方があったらペコm(_)mペコ)
釣りに出かけた帰り福知山でのこと。勝手知ったる裏道を、吊り上げたヒラメとアコウ(正式和名はキジハタ)をどのように食するか、それにあわせる酒は何にするか、という問題を慎重に大胆に必死に検討を重ねながら、車を運転していた。前から来る車が、次から次にパッシングをしてくれる。それも、すれ違う車のほとんど全部が。私ほどのオバカでも、ネズミ捕りをやっていることに気付いた。
警察というところは、何故か同じ場所で同じ取締りをやることが多い。一旦停止無視はここ、スピード違反はここ、シートベルト着用義務違反はここ、飲酒運転はここというように、馬鹿の一つ覚え的な部分がある。たまには他でやってみてはと思うが、とっ捕まえた車を安全に停めさせる場所がないと、取締りの場所に選ばない傾向にあるようだ。
何回も同じ道を走っているので、またあそこでやっているな。バレバレなのよ。ほんとにオバカさんなんだから。などと思いながら、スピードメーターとにらめっこ。40Km以上は出さないもんね。僕は安全運転だからね。捕まってやらないからね。という状態で運転していた。
やっぱりお決まりの場所に制服を着たお巡りさんが、俺は仕事してるもんね。見つかってないもんね。もっとスピード出せよ、そしたら捕まえるもんね的にいるではないか。 ハイハイ。これで捕まるやつなんかいないよね。と思いながら計測場所をスピードメーターを睨みつけつつ37Kmで通過。しばらく走ると、別のお巡りさんが、おいでおいでをしながら、こちらを睨みつけている。何故に私が呼ばれているのかは理解できないまま、逆らうわけにもいかず、とりあえず車を停めた。
「16Kmオーバーですので、こちらへ来てください」
「??? エッ」
どこをどう間違っても16Kmオーバーはないだろう。いかに刑事コロンボ並みの、おんぼろに乗っているとはいえ。
「私ですか?」
「ええ。なにわ××つ××××ですよね?」
「そうですが」
「あなたです」(キッパリ)
「ハア?」
仕方がないので誘導されるがまま、簡易テントに移動。私以外に2人が書類にサインしている。こいつらホンマモンの馬鹿?などと思いつつ、隣の安もんの椅子に座った。
いきなり
「免許書」
もうちょっと言い方があるだろうと思いながらも、いらないカードの束で分厚いが金の入っていない財布から、めったに使うことのない免許書を取り出して渡した。やっぱり警察の制服には逆らいにくい弱い自分がいる。
「間違いないね」
といいながら、青切符に記載を始める。ものの数分で書き上げ、
「はい、ここにサインして。ハンコはここ。なかったら拇印でいいよ」
ここまでは、ベルトコンベアーに乗せられている私。こちらが文句を言う暇を与えてくれない。
「あの~。16Kmもオーバーしてないと思うんですが・・・。×××のところで測ってましたよね。気がついたんでスピードメーターを見たんですが、37Kmだったんですよ。なんぼ古い車とはいえ、スピードメーターが20Kmも違っているとは思えないんですが・・・」
「それなら19Km(計算はしっかりしている)でしょう。気付いてたんですか?」
「ええ。6台ぐらいからパッシングされたんで、いつもの所だろうなと思いながら、注意して走ってましたから」
「それなら、なんで16Kmもオーバーするの」(怒)
「この車のスピードメーターがそんなに狂っているんですかね?それとも計測器の方がおかしいのか?ひょっとして別の車と間違ってません?」
「いいえ。このとおり貴方は56Kmで走行していました。これを見てください。」
と、レシートみたいなものを突きつける。
「だから、これが間違ってませんか?」
「いいえ。このとおりです」(キッパリ)
このあたりで、この警官といくら話しても無駄だと気付いた。警察の制服も怖くなくなった。ほうれん草の缶詰を食べたポパイのように。徹底的に戦う勇気と根性と体力がメラメラと湧き出してきたのだ。私の中で、すべてを否定する意思決定がなされた。
「それは認めません」(キッパリ)
「認めないのですね?」
「はい」
「では、調書を取らせてもらうことになりますが・・・」
「取ってください」
「時間がかかりますよ。認めたほうがいいのでは・・」
「時間はかまいません」
「この違反は、軽微なものですから・・・」
「違反していないものを、違反したと言われることが問題なのです」(再度キッパリ)
困った顔になっていく警官。どのようにいじめてやろうかと考える私の顔は、たぶんギラギラのニヤニヤ状態だったのだろう。警官の質問に答えながら、とっちめる方法を必死で考えていた。
「これに間違いないですね」
と、調書を読んで聞かされる。
「そこは違いますよ。××ではなく○○にしてください」
生まれて始めて調書なるものを取られたので、その時まで知らなかったのだが、調書と言うものは修正せずに一から全部書き直さなくてはいけないもののようである。
「これでいいですか?」
「それじゃ、警察の方が正しく感じる文章ですよね。そこの「が」を「は」に直してください」
また、書き直し。
「これでいいですね」
「まだ、警察の方が正しく聞こえますね。ちょっと貸してください」
「だめです」(キッパリ)
「赤入れ(編集用語で原稿の間違いを直す作業)しますから」
「赤入れ?」
「間違っている部分に、修正をしますから、清書したらどうですか」
「調書は証拠となりますので、渡せません」
「分かりました。じゃあ、ここを直してください」
また、書き直し。
このような問答を数回繰り返しているうちに、真っ暗になってきた。とっくにスピード違反取締り部隊の撤収は終了しているのだが、日本語を書けない一人の警官のために、残りのお巡りさんが懐中電灯で簡易テントの中を照らし続けるはめに。
約3時間が経過して、やっと調書が出来上がった。
「これでいいですね」
「はい」
「では、ここにサインと印鑑を」
魚釣りに行くのに、印鑑を持っていくやつがいるのか?すでに釣りの帰りであることも話したはず。完全にプッツン。
「俺の言ったことを聞いてないのか!釣りに印鑑持って行くやつがおるんか!!!」(タカビー)
「では、拇印を」(ビクビク)
「はなから、そう言わんか!交通違反の調書を取るのに3時間もかかるのはおかしないか?誰に日本語を習ろてん」
「学校で」
「分かっとるわい。お前じゃ話にならんから、月給の高いやつ呼んで来い。そいつと話してから拇印ついたる」
回りにいたお巡りさんも、困った様子。懐中電灯部隊の中の一人が
「ここの責任者は私ですが・・・」と、名乗り出た。
そこで、私は非常に冷静に
「あなたは、彼の教育の責任者ですか?」と、尋ねた。
「一応、上司になります」
「では、教育に関しても責任を負っておられるのですね?」
「いえ、それは署長ということになるのですが・・・」
「分かりました。では、署長さんを呼んでください」
「ここへは無理です。すみませんが、署までご一緒願えますか」
逮捕されるの?ビクビクの私。そんなことはお首にも出さず、
「行きましょう。それと書き直した調書の束と、出来上がったものを一緒に持ってきてくださいね。あなた方の言う証拠ですから」
というわけで、警察署まで。署長室で、副署長(署長は出張中という話を信じてあげた)と、調書を書いた警官と、その上司と名乗った警官は、正しい日本語とその教育のしかたについて、延々5時間のお説教をくらったのである。
家に帰り着いたら夜が明けていた。釣った魚たちを冷蔵庫にしまって爆睡。その晩、目覚めるなり魚三昧をあじわったが、車の中で必死で的確にチョイスした「手取川」と「ささにごり」を買いにいけなかったのが、残念でならない。海の魚の相手が、川とその状態を表す言葉の日本酒だったのが問題?
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