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北海ハイジャック

 

  スコットランド映画特集の1回目は、「北海ハイジャック」です。

  ノルウェー海の沖にそびえたつ巨大な油田基地に、新聞記者を装って凶悪なテロリスト集団が侵入。冷酷で頭脳明晰なクレイマー(アンソニー・パーキンス)をリーダーとする一味は爆弾を仕掛け、政府相手に2500万ポンドの大金を要求する。残された猶予はあとわずか。刻一刻と迫る受け渡し期限を前に、英国首相は海軍将官ブリスデン卿(ジェームズ・メイソン)を派遣、フォルクス(ロジャー・ムーア)率いる腕利きダイバーチームに事態の収拾を託す。四方を海に囲まれた、難攻不落の掘削基地への決死の潜入が今、開始された…。

DVDジャケット解説より

  なぜ、「北海ハイジャック」を最初に選んだのかといえば、さる5月29日、外信の短い訃報に接したからでした。

  楠原映二氏(くすはら・えいじ=在英日本人俳優) 

  28日付英紙ガーディアンによると、がんのため4月23日死去、63歳。多摩美大で演劇を学び、東京キッドブラザースに入団。75年、英国に移住し、前衛的劇団に所属。ロイヤルシェークスピア劇団などでも活動、英国で活躍する日本人俳優の草分け的存在に。映画「エレファント・マン」など、欧米の多くの映画やドラマに出演。

  聞き覚えのある名前だなと思って調べてみたら、テロリスト一味の一人として本作に出演していたのが判りました。人種差別が根強く階級社会の英国で役者を続けていくのはさぞかし大変だったでしょう。その苦労を偲び、哀悼の意を捧げます。
  主演のロジャー・ムーアとアンソニー・パーキンスの二人も、3代目ジェームズ・ボンドとノーマン・ベイツのイメージを拭い去れず、以降、作品に恵まれたとはいえません。
  ぼくを含めて、ボンドマニアから「黄金銃を持つ男」とシリーズ・ワーストを争うと評されている、「ムーンレイカー」と同じ1979年に製作されたこの「北海ハイジャック」も、007もどきのセットや水中シーンのほかに、観るべきもののあまりないB級アクションです。予算が少なかったためか、船上でのエピソードがほとんどで、外界から隔絶された巨大構造物という、格好のシチュエーションを活かせていない。
  子供のころにテレビで観たときはもっと面白かったのになあ。もしかすると、「ジャガーノート」と混同していたのかもしれない。とはいえ、緩い雰囲気は嫌いではないですがね。

  ロジャー・ムーアはコミカルなムーア・ボンドとは対照的な、女より猫を愛する頑迷なセクシストを演じています。そのうえ、大酒飲みで暇さえあれば猫の図柄の刺繍を縫っている、なんだかよく分からないエキセントリックなキャラクターで、敵役のアンソニー・パーキンスのほうが、欲得ずくの動機がはっきりしているだけにむしろまともに見えました。

  ムーアはスコットランド貴族の末裔らしく、部下をみずからの城で訓練しています。

  有名な Eilean Donan Castle に似ているので、てっきり、スコットランドでロケーションしたのだろうと決めつけていたら、アイルランド西部、ゴールウェイ県の Dunguaire Castle のようです。スコットランドが舞台の映画というテーマをいきなり外してしまいました。
  まあ、いいか。いずれアイルランド映画も紹介するつもりだし。

  ムーアがしょっちゅう呷っているウイスキーは、安酒のマッカーシーズです。日本でも千円足らずで販売されていました。

  ボニー・プリンス・チャーリーと行動をともにしたと伝えられる、アーガイル地方のクラン、マッカーシー家にゆかりのブレンディッド・スコッチで、1877年に誕生しました。
  質素、悪くいえば吝嗇なスコットランドの資産家がいかにも飲んでいそうな銘柄ですな。

  ラストはちょっと萌えました。ともあれ、お勧めはしないけれど、どうしても観てみたいというのであれば無理に止めはしない。そんな映画です。

#スコットランド映画

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