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やってみなはれ

やってみなはれ」僕はこの言葉が大好きだ。ご存知の方は多いと思うがこの言葉はあの日本初のウイスキー蒸留所の山崎蒸留所を作ったサントリーの創業者鳥井信治郎の言葉である。サントリーの社是、社訓にもなっていると言う名言だ。
 チャレンジ精神を否定しない。かと言って突き放す訳でもなければ無責任に言っているのではなく、暖かな眼差しで見守る姿勢を垣間見る事の出来る含蓄のある言葉だと僕は思っている。

 今回バーを開業するにあたって二の足を踏む事はなかった。知識もキャリアも全然足りないし何の実績もないのは分かってはいる。でも今出来る限りの勉強や経験はしてきたつもりである。いつも決断するのは早く実行力はある方だと自分では思う。しかし、それを周りは無謀、無鉄砲と揶揄する。大反対される事は容易に予想できたが、少し前に両親に開業を打ち明けに実家に帰った。久しぶりに会う両親はまた年を重ねたようにも思えた。ずっと会社員をやっていたと思っている両親に、僕は冷静を装って切り出した。予想を越える大反対。勘当されたも同然に実家を後にした。
 昭和の初め(13年)の生まれで空襲で父を亡くし、いろんな苦労を経験している母は真面目な頑固一徹昭和の女である。ショットバーと言っても、スナック、キャバレー、或いはラウンジ、クラブ・・その他の女性サービスの水商売と区別がついていないのかも知れない。かと言って僕の言葉に耳を傾けてくれる程温厚な人ではない。だけど僕の事を心配して言ってくれている事位は充分に理解出来るし、その気持ちは痛いほどわかる。
 母親には僕が子供の頃から今の今まで迷惑掛け続けている。幸せな気持ちにさせてあげた事なんて無いかも知れない。三十路にもなったと言うのにまだ心配や迷惑掛け続けている自分が情けないし、申し訳ない。けど、実家を離れて十年余りたった今、いやそれよりもずっと前に親のありがたさは充分理解している。生んで育ててくれて本当に感謝しても仕切れないくらいだ。いつも勝手な言い分だけど、この店を成功させる事が親孝行になると勝手に思っている。

 僕が高校卒業前に進路選択する時、進学も就職もせず夢を追いたいと言った。周りは皆反対した。その時一人冷静に背中を押してくれた人がいた。親友山川の父で京都産業大学日本拳法部監督の山川先生。その時頂いた言葉は「やるだけやってあかんかったらそれは仕方がない。今したいことやらんと後から周りのせいにするな。」何か人生の選択に迷った時、僕はこの言葉をいつも思い出した。その言葉が僕を励まし勇気付け背中を押してくれた。だから今まで何度くじけようと前に進むことができた。
 今まで情熱と挫折の繰り返しでいろんな事をやって来た。しかし失敗の連続で何も形にならなかった。けど山川先生の言う通りやってだめだった事は納得できた。それで良かったのかは今になってもわからない。でもやらなくて責任転嫁するような後悔はしなかった。失敗の積み重ねと流した涙の数が生きていく上での大きな糧となると信じて生きて来た。いつでも新たな一歩を踏み出そうとする時山川先生のくれた言葉が僕の背中を押してくれた。鳥井信治郎の言葉と重なって聞こえた。言葉は大きな力となる。悔いを残すことなく誠心誠意頑張りたい。

         やってみなはれ。やらなわからしまへんで。」

#開店への歩み

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