2009/01/03 西部読売新聞 朝刊
◆レパートリー300種 「カクテルも人も好き」
今年読売新聞に紹介された記事です。
成田一徹さんの切り絵とともに紹介されてます。
嬉しいですねー。
夜の帳(とばり)が下りる頃、JR徳山駅(周南市)に近い繁華街の一角で、
バー南蛮屋の古びた看板に「カクテール」の文字が浮かび上がった。
「いらっしゃい」
扉を開けると、店主の竹中豊子さん(83)がいつもの笑顔で迎えてくれる。
壁には昭和を代表する写真家で同市出身の林忠彦(1918~90)がグラスを傾けて談笑する写真。
文化人たちが足しげく通った老舗の風格が店内に漂う。
1960年の開業で、シェーカーを振り続けてほぼ半世紀。
「おそらく現役の女性バーテンダーで日本の最高齢……」。
昨年11月、サントリーが業界向けに発行している情報誌「Whisky Voice」で竹中さんが紹介された。
全国のバーを巡る切り絵作家の成田一徹さん(59)(東京都台東区)が同誌のコラム欄に執筆、
竹中さんの切り絵姿も載せた。来店時には竹中さん自慢のマティーニを注文する南蛮屋ファンの一人だ。
「客の喜怒哀楽を見つめ続けてきたあの笑顔に50年が凝縮されている。
笑みを浮かべながら出されたマティーニを飲んだ瞬間、半世紀の歴史を味わえた気がした」と感慨深げに話す。
竹中さんはバーテンダーになる前、美容師だった。
ある日、常連客から誘われたバーで飲んだカクテルにすっかり魅了され、夜の世界に転身。
修業を重ねてレパートリーは300種類を超すという。
「やめようなんて思ったことは一度もないわ。カクテルを作るのも、人と話すのも好きだから」。
言葉通り、カウンター越しのシェーカーさばきは年齢を感じさせず、生き生きとして楽しそうだ。
バー(止まり木)と、テンダー(優しい)を合わせて「優しい止まり木」とも呼ばれるバーテンダー。
疲れを癒やしに訪れるビジネスマンを優しく迎える姿は、まさにその呼称を体現している。
飲み客を元気づけるだけでなく、弾む会話を通してコンビナートの街の盛衰を見つめてきた。
懐かしさを求めて立ち寄る年配客も後を絶たない。
周南市でバー「椎の木」を営むマスターの椎木誠一さん(53)は開業前に竹中さんにカクテルの作り方を教わった一人。
身近な師匠が今も多くの客に愛され、現役でいることを自慢に思っている。
「ずっとカウンターに立ち続ける南蛮屋のおばちゃんは最高に格好いい。先生であり、あこがれの存在ですから」。
竹中さんの生き方に酔う一人だ。
(網本健二郎)
#BAR(周南・徳山)