MENU

ピクト族の集落つながり

昨日ご来店されて『ピティヴェアック 花と動物シリーズ』等をご注文頂いたお客様は、何と当方が先日公開した“バックバーのウィスキーリスト”を、わざわざプリントアウトして携帯しておられました!
感激すると共に、モルト・ファンの底知れぬ情熱に胸が熱くなる思いでした。
私は家族からモルト中毒と呼ばれている身ですが、これからもモルト道を突き進んで行く勇気を与えられた気持ちです。

今回ご注文頂いたピティビェアックは、ブレンデッド・ウィスキー『ベル』でお馴染みのアーサー・ベル&サンズ社によって、1975年にダフタウン蒸留所の拡張プログラムとして建築された、ダフタウンの弟分の様な蒸留所です。
しかし1993年に操業停止。 シングルモルトとしては殆ど出回わる事無く、その後2002年に取り壊されました。
この花と動物シリーズはオーナーであるUD社が1991年に発売した12年物で、ハイランドの森に棲息するロー・ディアー(ノロジカ)がラベルを飾っています。

Pittyvaichの様に頭にPit-が付く地名は、そこにピクト族の集落があった事を示すと言われています。意味は「ピクト族の集落に在る牛小屋」。

ピクト族とは紀元前1000年頃より現在のスコットランドに住んでいた民族で、ピクト(pict)とは“体を塗った者(刺青をした者)”という意味で、ローマ人が名付けた呼称です。
紀元43年にローマ帝国がブリテン島に侵入しブリタニア州として属領にしましたが、北方に住むピクト族の勇猛果敢さはローマ人にとっても脅威だったようで、2世紀に入るとカレドニア(古代スコットランド)の征服を諦め、130年にローマ皇帝ハドリアヌスがピクト族の南進を防ぐために、イングランド中央部東岸のニューキャッスル・アポン・タインから西岸のカーライルまで100kmあまりも続く、石垣を造ってピクト族に対抗しました。これが「ハドリアヌス帝の長城(Hadrian”s Walls)」で、言わばイギリス版「万里の長城」です。
そしてローマ帝国のブリテン支配はその後4世紀くらいまで続きます。

ピクト族は4世紀頃にアイルランドから来たスコット族と次第に融和し、846年にダルリアダ王(スコット族)のケネス・マッカルピンが策略によりオールバ王国(ピクト族)の王となる形で、連合王国として統一を果たします。
ピクト族は文字を持たなかった為に(確か。。)13世紀頃までに文化的に消滅した後は詳細を知る手掛かりが無く、謎の多い民族として今日まで語り継がれています。

ウィスキーの話から大きくそれてしまいましたが、この『ピティヴェアック 12年 花と動物シリーズ』はなかなか秀逸なシェリー樽熟成モルトに仕上がっていると思います。

先ず強いシェリーの樽香が鼻を刺激し、口に含む期待感が高まります。
一口含むと以外に穏やかなフルーティーさを感じ、その後スパイシーさが舌の上に広がります。ミルキーさや柔らかな甘味が樽由来の渋みと混ざり合い、次第にドライな感じに移り変わり、スパイシーな余韻が長く続きます。
シェリー樽熟成や樽香がお好きな方に確実に受け入れられる、個性的なモルトだと思います。

当店も『Pitlochry(ピトロッホリー)』という、ピクト族由来の地名を冠する店なので、ピクト族に対してとても愛着を持っているのですが、残念ながら上記の理由で今をもって詳細を知る事は出来ません。
いつの日かその謎の多い民族に関する研究が進んで、少しでも理解出来るようになればと願っています。




           PITYVAICH 12年 UD社 花と動物シリーズ 43%  1200円/30ml

この記事を書いた人