■ ニッカウヰスキーの場合。
(「琥珀色の夢を見る~竹鶴政孝とニッカウヰスキー物語」 (松尾秀助著)より)
竹鶴政孝(以下、敬称略)が余市に工場を建設した時、オラガビールの工場から連れてきた樽づくりの名人がいた。小松崎与四郎である。
「厳しい人でね。ハンマーが飛んでくる。ノミの柄で殴られる。見よう見まねで盗むしかない。16人いた職人が、あまりに辛くて2人になってしまった。でも、竹鶴さんは小松崎さんが自慢でね、日本に5人しかいない名人がうちにいる、と。
はじめはスコットランドから輸入した樽を解体して研究し、それから自分で造ってみるというやり方だった。当時は北海道に楢材の原木が十分にあったんですよ。
いい原酒といい樽といいブレンダーがいて、初めていいウイスキーができるんです。樽の重要性は非常に大きい」
と長谷川清道は言う。
「俺はいい原酒を造る。お前はいい樽を造ってくれ」と常に言っていた竹鶴政孝の言葉を長谷川は忘れない。
長谷川清道氏(1956年入社)自身も、2001年にスコットランド樽職人組合から世界の樽職人15人のひとりに選ばれた名人だ。
「マイウイスキーづくり」のときに伺った話だが、
「樽の原木は余市近郊のミズナラでした。たまに自分たちで伐採に行くこともありました。昭和40年頃まで使ってました」
また故宇野正紘前社長(1963年入社。蝶の収集家として日本有数な方)に伺った話は、
「竹鶴自身から、ウイスキーの原材料となる水、大麦、ピート、石炭と並んで、銀山のミズナラが余市を選んだ理由だと聞きました。1960年代半ばになると、樽に使える高樹齢の太い原木が少なくなったことと、国内材ではコスト的に太刀打ちできなくなり、輸入樽に変えました」
銀山は、余市から南南西約15キロにある山(標高640.5m)である。
■ サントリーはどうか?
(「サントリーシングルモルトウイスキー「山崎50年(2007年)」新発売」のプレスリリースより)
「鳥井信治郎が日本初のウイスキーをつくり始めて20数年間は、主にスペイン産のシェリー樽で熟成を行っていました。
第二次世界大戦の影響で、樽の輸入が困難になると、戦中戦後の20数年間は国産のミズナラ材で樽を自家製造し、ウイスキーを貯蔵しました。北海道や東北のミズナラはチロースが少ないため漏れやすく、また曲げにくく折れやすいという特性から、当時の樽職人はたいへんな苦労をして製樽をしたと言われています。」
戦中、戦後、国産のミズナラ樽を使っていた話は、山崎蒸溜所でも伺ったことがある。
■ ベンチャーウイスキーの肥土社長に伺った話。
「ミズナラ樽はやってます。ただしミズナラを特別に意識はしていません。日本では自社でいろいろなタイプの原酒を造り分けなければならないので、そのうちのひとつです」
■ 一般論として(「ウイスキーコニサー資格認定試験教本」より)、
【日本の洋樽】
ビール用樽として、1880年代頃からビール製造開始と共に利用が始まる。その際は外国産ビールの空樽が使用されることから始まったが1910年頃には北海道産のナラ材が利用されるようになった。これはドイツから招かれた技術者(樽職人)が、ヨーロッパ・ナラに近い木材として、日本のミズナラを使ったからだと推測される。
【樽の一生】
樽は10年程度を単位として、ウイスキーの払い出しごとに1空き、2空き・・・と呼ばれる。3空き以上で樽材からの成分を再活性化するためにリチャーを行うことがある。樽は合計70~80年程度利用されて熟成の役目を終える。
(樽寿命について、個人的にはもう少し短いと思っている)
■ 要約すると、
・ビール用樽として洋樽を使用。1910年頃にはミズナラ材で造られるようになった。
・サントリー、ニッカともに昭和40年頃まで国産のミズナラ樽を使っていた。
・輸入樽切替えは品質(ウイスキーの香味)の問題でなく、ミズナラ材の枯渇とコストのため。
・樽寿命(70~80年)から考えて、それなりの数の60年代以前のミズナラ樽が現役である。
・原酒造り分けのため、現在も意図的に一部の新樽にはミズナラ材を使っている。
言い換えると、熟成樽表記の有無に拘らず、日々ミズナラ樽熟成のウイスキーとは知らずに飲んでいたことになり、また長熟ものではミズナラ熟成の比率が高いという理屈になる。
例えば竹鶴35年は、ミズナラ樽熟成の混合比率が確実に高いはずだ。
近年、巷で何かと持て囃されるミズナラだが・・・、
1960年代のウイスキーブームの頃は、国産ウイスキーはミズナラ樽熟成だった。(←追記:樽輸入されたウイスキーがあり、軽々に言えない。赤枝騎士様のコメントをお読みください)
輸入樽の増加で相対的にミズナラ樽の比率が減って、逆にいま持て囃されるという、パラドックスなのだろうか?
追記(7月1日 09:00)
赤枝騎士様から、たいへん有用なコメントを頂きました。
下記のコメントと上記を合わせてお読みいただくと、全体像が理解できると思いますので、是非コメントをお読みください。
赤枝騎士様、ありがとうございました。
#Japanese Whisky